小さな婚約

晴れて恋人同士になってから、1ヶ月が過ぎた。
そろそろ医者からテニスをする許可が欲しい僕は、手塚と一緒に放課後の部活で高みの見物をした。
越前は微妙な表情で見物する僕を見ていた。
僕の予想では、越前は華代の事が好きだ。
華代を見る目が違う。
僕らが付き合っているという噂を耳にしたんだと思う。

世界を代表するバイオリン国際コンクールを控える華代は、昼休みに音楽室を借りて練習する機会が多かった。
桃と僕が見守るテニスコートの傍で練習する時もあった。
この国で頂点に君臨するバイオリンの音色を聴きながら、テニスが出来る。
青学のテニス部は贅沢だと思った。

そして、とある水曜日の部活の時間。
僕は木洩れ日の下でバイオリンを弾いている華代に話しかけた。

「華代。」

『先輩?』

君はバイオリンを弾いたまま話した。
僕は立って演奏している君の隣に座った。

「毎日頑張るね。」

『先輩こそ見物お疲れ様です。』

華代はクスッと笑った。
君は丁度弾き終わり、バイオリンを下ろした。

『私もちょっと休憩します。』

「1曲が10分以上あるしね。」

君は僕の隣に座った。
肩を引き寄せたくなったけど、此処は学校だ。

「練習は順調そうだね。」

『はい。』

「コンクール、期待しているよ。」

『でも世界は強いですから。』

君は恥ずかしそうに言った。
華代が出場するコンクールのチケットは、飛行機の往復チケット付きで貰った。
事故で華代を助けた事を感謝している華代の両親が、僕に送ってくれたものだった。
愛は自腹でチケットを買い、僕について来る。
僕は君が世界の舞台でバイオリンを弾くのを目の当たりにできるんだ。
コンクールに期待してしまう。
でもその前に、手術があるのを忘れてはいない。
手術の日が刻一刻と近付くと同時に、緊張感に包まれていくのを感じていた。
華代はバイオリンをケースの上にそっと置いた。

「華代。」

『はい?』

僕は君の綺麗な水色をした目を見た。

「コンクールが終わったら、展望台に行こうか。」

『え…?』

君は目を見開いた。
星の話をするのは、これが初めてだった。

『お兄ちゃんから…聞いたんですか?』

「うん。」

『そうですか…。

でも手術が成功するかどうか…。』

「結果は関係ないよ。」

君が好きだった場所に一緒に行きたいんだ。
当然目が見えていたら一番いいと思うけど、結果が如何なろうと華代を連れて行きたい。

『じゃあ、約束です。』

君は小指を出した。

「約束だね。」

僕も小指を出し、二人で指きりをした。
僕らはクスクスと笑い合った。
テニスコートの傍で、幸せオーラを全開にしている。
後で英二に突っ込まれそうだ。

『私ね――』

君は僕の指を離さずに言った。
僕が見た君は、太陽みたいに眩しい笑顔だった。

『見えるようになったら、まず最初に先輩の顔、見たいなぁ…。』

「いいよ。」

『本当ですか?!』

別に減るものではないしね。
ただ、少し恥ずかしいけどね。

『夏休みは色々な処に行きたいです。』

「海にでも行こうか。」

『はい!』

僕らは幸せな未来を語った。
どれだけ幸せを願っただろう。
華代を絶対笑顔にすると心に決め、幸せな未来を心に描いた。
君の眩しい笑顔が絶えないように、祈るばかりだった。





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