身代わり

朝から、空は生憎の雨。
僕はお気に入りのベージュの傘を差して、街へ出た。
雨は好きではないけど、普段よりも人ごみが少なくなるのは一つの利点だと思う。
馴染みのある街へ、徒歩でやってきた。
道路には車を映している大きな水たまりがあるから、雨は長時間振り続けているみたいだ。
都会にしては珍しく、霧がとても濃い。
遠くが見え難く、視界が悪い。
愛にも言ったけど、僕も気を付けないとね。

目的地へ向けて、ぶらぶらと歩く。
多種多様なカメラが売っている電化製品専門店は、まだもう少し先だ。
霧が濃い中、看板が見えないかと遠くに目を凝らした時、僕は自分の目を疑った。
大きな四車線の道路を跨ぐ信号を待っているあの女の子。
たとえ霧の中だとしても、僕が見間違える筈がない。
華代だ――。
僕は歩みを止めずに、君を見た。
歩みを止めるどころか、自然と速くなる。
このまま歩いていけば、華代と鉢ち合わせる。
華代には関わらない方がいいと自分に言い聞かせたけど、やっぱり無理だ。
華代の待っている信号が青になった。
信号が青になりました、というボイスが流れた。
華代は普段から使用している白杖を使い、ゆっくり信号を渡り始めた。
何処へ行くんだろう。
華代の荷物は小さな鞄と白杖だけだった。

華代の名前を呼ぼうとしたその時、物凄く大きな音がした。
道路とタイヤが摩擦する大きな音で、僕は思わず耳を塞ぎそうになった。
周りにいる人たちも、何事かと辺りを窺っている。
でも霧が濃くて、はっきりと見えない。

大型トラックが信じられないスピードで蛇行運転しながら、道を突っ切っている。
僕は反射的に駆け出した。
あの大型トラックが向かっている先は、華代がたった今横断している歩道。
あんなスピードでは止まれる訳がない。
華代は音に驚いて足を止めてしまっていた。
僕は身体が心臓になったみたいに、全身が脈を打った。





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