展望台

華代との間に授かった女の子は雅≠ニ名付けられた。
名付け親は僕だ。
雅は未だに集中治療室から出られず、病院の外へ一歩も出ていない。
一定体重に達したら、退院できるらしい。
雅には奇跡的に障害が残らなかった。
きっと華代が守ってくれたんだ。
雅は退院したら、暫く桃城家にお世話になる事が決まっている。
退院出来るのは何ヶ月も先になりそうだ。

僕は封筒を開けてすぐに、ずっと行きたいと思っていた場所へ出掛けた。
華代と一緒に行く筈だった展望台だ。
山の頂上にあって、海まで見えるんだと聞いた。
長い階段をひたすら登り、展望台を目指した。

「結構きついな…。」

何時までも続く階段はゴールが見えない。
山奥とは聞いていたけど、まさか此処まで登るとは思っていなかった。
何より、独りが寂しい。
誰かを連れて来たら良かったかもしれない。
愛は海外遠征中で、英二も部活に疲れている。

僕が展望台に出かけたのは、日付が変わりそうな時間帯だった。
空も周囲も真っ暗で、人もいない。
懐中電灯を持って、足を踏み外さないように注意した。
随分と時間が経って、僕は肩に掛けていたフェイスタオルで汗を何度も拭った。
時計も見ずに、ひたすら登った。

「……着いた。」

やっとの事で到着した展望台。
木製の床は広く開けていて、海側にフェンスがある。
身体を乗り出して景色が観られる造りになっていた。
展望台の中央には小さな屋根と、その下に椅子が幾つか並んでいる。
展望台から見た空は何処までも広くて、言葉にならないくらい壮大だった。

静かな海と煌びやかな街が一望出来る。
体力の限界だった僕はリュックを下ろし、誰もいないのをいい事に、仰向けに寝転んだ。
荒い息を整えながら、空を見つめた。
背中に土が付いてしまう事なんて気にする余裕がないくらい、星に魅入った。

一つ一つの星が瞬いている。
都会の街からは決して見えない数の星だ。

僕はリュックからコンパクトなカセットプレーヤーを取り出した。
勿論、中にはあのカセットテープが入っている。
両耳にイヤホンをつけて、プレーヤーの再生ボタンを押した。
流れ始める君の奏でる曲は、僕がこの世で一番好きな音色だ。

君は僕の傍にいないなんて事はないよ。
こうして僕のすぐ傍で、音楽として残っている。
僕はふと微笑んだ。

「華代、星が凄く綺麗だね。」


―――そうですね。


「っ!?」

僕は弾けるように起き上がった。
慌てて辺りを見渡しても、誰も見えない。

……華代?

君の声が聞こえた気がした。
僕は少しの間、動けなかった。

この日から僕は確信している。
手紙で華代が言ってくれた言葉。

―――ずっと見守っています。

それは本当なんだ。
華代は何時でも僕を見ている。
僕はまた寝転んで、綺麗な星空を見ながら微笑んだ。

見ていてね、華代。
僕は強く生きるよ、君の為に。



2009.2.13




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