封筒

華代が亡くなって以来、何事にも気力が出なかった。
生まれた子供は超未熟児で、NICUと呼ばれる新生児集中治療室に入院となった。
病院の先生から許可が出るまで、面会は出来ない。

授業中の記憶なんて、殆どない。
ずっと華代との思い出ばかりが頭を巡った。
目の手術を華代に勧めた罪悪感が、また僕を襲い始めた。
授業中に何度も胸が苦しくなった。
僕は華代が脳死してから涙を流し過ぎている。
でも、未だに涙は枯れなかった。
何時になれば、涙は枯れるのだろうか。


華代の葬儀の当日。
僕は喪服を着て、裕太や姉さんを含めた家族一同で葬儀会場へと向かった。
其処には華代のクラスメイトや、テニス部のレギュラーメンバーも集まってくれた。

「不二。」

「やあ、英二。」

葬儀が始まる前に、英二に話しかけられた。
力なく、でも笑って返事をする僕に、英二は心配そうな顔をした。

「大丈夫、すぐに立ち直ってみせるから。」

親友を心配させまいと、微笑んでみせた。
英二は頷いて、拳を僕に見せた。

「何時までもへこんでるようなら、また喝入れてやるぞ。」

「あれは痛かったな。」

英二の優しさは僕の気持ちをしっかりと支えてくれた。
英二がいたから、僕は真っ逆さまに下へ落ちる事はなかった。
友情の力はとても大きかった。

華代に最後の別れの挨拶をする時。
希望者だけが順番に華代の棺に花を入れていった。
華代の眠る棺の中に、綺麗な花が増えてゆく。
僕は順番が来るのが怖かった。
もう華代の顔を見られなくなる。
そう考えている間も、順番は無情に近付いた。
そして、僕の前に並んでいた愛が華代の棺に花を添えた。

「華代…。」

愛が呟くように小さな声で言った。
後ろにいる僕が僅かに聞こえたくらいの声だった。

「…今までありがとうね。

これからもずっと親友だからね。」

愛は今にも泣きそうな声でそう言うと、棺から離れた。
それを聞いた僕は、涙が込み上げるのを堪えた。
最期くらいは、笑顔でさよならをしたい。





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