別れ

英二に励まされてから、僕は学校に行くようになった。
部活は手塚に促され、桃と一緒に時々休みを貰った。
授業に集中出来た訳ではないし、呆然とする回数も以前より増えたように感じる。
でも、僕は笑顔を取り戻せた。

以前は学校に行かずに、朝から華代の眠る病院へ向かっていた。
今は愛や桃と一緒に放課後に行くようになった。
病院は遠いから、到着時間は遅くなる。
でも華代の為なら、長い移動時間も苦じゃなかった。
移動時間は愛が買ってくれた新生児用の本を読んだ。

華代のお腹を触ると、確かに大きかった。
愛と桃は当然ながら、華代の両親も産まれてくる子供を心待ちにしていた。
その一方で、華代に限界が来ないか心配だった。

そして愛は華代からの手紙を開封したにも関わらず、僕だけは開封出来ずにいた。
後から聞いた話では、華代は桃や両親にも手紙を書いていたそうだ。
手紙で号泣したと愛から聞かされると、余計に開封する勇気がなくなる自分がいた。



そして――年を越し、1月になった。
まだまだ肌寒い日々が続いている。
僕は心の中で、よく華代に話しかけた。
授業中も、部活の休憩中も。
病院で頑張っている君を応援していた。

華代に異変が起きたのは、午後の授業の真っ最中だった。
学校から放送で呼び出しを受け、愛と桃と一緒に学校を飛び出して病院へ向かった。
華代が手術を受けているらしい。
看護婦に案内されて手術室へ到着すると、華代の両親が手を合わせて祈っていた。
華代の母親が慌てて現れた僕らに気付いた。

「周助君…!」

華代の母親の声で、華代の父親は俯いた顔を素早く上げた。
愛が息切れしながら訊ねた。

「華代は!?」

「心拍数が急に落ちて…今、帝王切開で子供を…。」

ついに華代に限界が来たんだ。
本来、お腹の子は10か月程かけて母体で成長する。
今回のケースは22週すら満たしていない為、超未熟児の分類に入る。
無事に産まれても、暫くは集中治療室での生活になる。

僕らは祈った。
一言も喋らずに、祈った。
祈る事しか出来なかった。
華代の目の手術の時にも、祈りばかりを捧げていた自分が走馬灯のように思い出された。

子供が無事でありますように。
華代の体力が持ちますように。
時間を忘れて、皆で祈った。





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