誕生日

華代の誕生日の当日がやってきた。
僕はこの日までずっと、負の感情以外なくなったかのように過ごしていた。
学校にも行けなかったし、食欲もなかった。
高校3年生は大学受験の年なのに、全く勉強が手につかなかった。
僕は推薦入試を受けようと決意した。
高校では真面目に勉強していたから、学校側は推薦入試を受けるのを許可してくれた。
勉強が出来る状態じゃなかった僕にとって、推薦で受験が出来るのはありがたかった。

今日が華代の誕生日という事は、華代は16歳の誕生日をもって息を引き取るという事。
華代の眠っている顔を見られなくなってしまう。
華代の誕生日が過ぎれば逢えなくなると分かっているだけに、僕は華代に逢わずにはいられなかった。
学校なんて忘れて、病院に通い詰めた。
でも、もうそれも今日で最後なんだね。

気持ちが嫌でも塞がる中、僕は華代の眠っている病室に入った。
扉を開けると、愛、桃、華代の両親が華代のベットの傍に集まっているのが目に入った。
僕は華代の両親に頭を下げた。

「お兄ちゃん遅いよ!」

「ごめん。」

頬を膨らませる愛に謝ると、僕は用意されていた椅子に座った。
そして、華代の両親に挨拶した。

「おはようございます。

遅れてすみませんでした。」

「いいのよ。」

華代の母親の台詞に、華代の父親も頷いてくれた。
でも愛は少し不貞腐れたままだ。

「今日は華代の誕生日なんだから。」

愛は病室にある冷蔵庫から箱を出した。
それを丸いテーブルに置き、慎重に中身を取り出した。
可愛らしい苺のショートケーキが顔を出した。
すでに6等分されている。
華代の父親が口を開いた。

「皆、今日は華代の為にありがとう。

華代はきっと喜んでいるだろう。」

「愛ちゃん、わざわざケーキを買ってきてくれてありがとうね。」

そう言ったのは華代の母親だ。
愛は親しみ慣れた華代の母親に言った。

「華代は親友ですから、これくらい当然です。」

愛はケーキを買う為に、早く家を出ていたんだね。
僕が華代の顔をずっと見ていたら、桃が華代の頬を突っついた。

「こんなに祝福されて幸せだな。」

当初よりも元気になったように見える桃だけど、無理をしているように思う。
桃の台詞に頷いた愛は、明らかに作り笑いだった。
妹の事だから、それくらい分かるよ。
愛はプラスチックのフォークで紙の取り皿にケーキを取り分けた。
桃が紙コップにミネラルウォーターを注いだ。

「はい、母ちゃんたちもコップ持って!」

皆が紙コップを持った。
1つ、余ったのは華代の分だ。

「それじゃあ華代の誕生日を祝って…っ…。」

桃の乾杯の音頭は、鍋パーティーの時のようにはいかなかった。
泣き出しそうな桃が言葉に詰まると、愛が急に泣き出した。
華代の母親は愛の背中を優しく摩ったけど、同じように泣き出してしまった。
桃が二人に空元気で突っ込んだ。

「おいおい、泣いて祝う誕生日があっかよ!」

華代の父親も泣いているのか堪えているのか分からないけど、黙って俯いていた。
僕はいても立ってもいられず、プラスチックのフォークを持った。

「華代、誕生日おめでとう!」

一人でそう言うと、ケーキを一気に口に入れた。
そうでもしないと、涙が溢れてしまいそうだったから。
食欲がなかった筈なのに、幾らでも食べられそうだ。

「あっ、お兄ちゃんずるい!

華代おめでとう!」

愛も負けじとケーキを頬張った。
桃は大泣きし、何やらもごもごと言いながらケーキにかぶりついていた。
きっと、おめでとうと言っているんだね。
華代の両親も静かにおめでとうと言うと、ケーキを口に運んだ。
出席者が哀しみに泣いている誕生日会なんて、人生で経験するとは思わなかった。





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