音色-2

大きな拍手と期待で騒然としている中、僕は眠気なんてふっ飛んた。
スポットライトが1年生の着席しているエリアの、ある一点を照らした。
皆の視線が其処に集中する。
すると1人の女の子がスポットライトの中でゆっくり立ち上がった。
あの子は間違いなく華代ちゃんだった。
オーケストラの指揮者が舞台から降りてきて、華代ちゃんの傍まで歩いていった。
華代ちゃんは指揮者の手を取って舞台まで上がると、オーケストラの前、指揮者の隣で立ち止まった。
拍手は止み、体育館は期待感に包まれた。
今からこの国で最高のバイオリンの音色がこの場に響き渡るのだから。
舞台の袖からオーケストラの一人がバイオリンを持って現れ、華代ちゃんにそれを渡した。
華代ちゃんが笑顔でそれを受け取り、慣れた手つきでそれを構えた。
すると指揮者が手を上げ、合奏団全員が各々の楽器をすっと構えた。

緊迫した空気の中で、演奏が始まった。
華代ちゃんのソロから入る。
感情が最大限に込められた、以前に聴いたあの綺麗な音色。
此処にいる全ての人を魅了する音色。
君が弾いていたのは僕に弾いてくれたあの曲チャルダッシュ≠セった。

オーケストラだと、ソロで聴いた時とは別の感動があった。
僕は君しか見ていなかった。
君は何時もよりずっと輝いて見えて、僕を虜にする。
きっと僕だけじゃない。
君の音色は全ての人を魅了する力がある。
僕が君の音色に凄く惹かれたのは間違いじゃなかった。

人の心に深く響く音色。
一度聴けば、もう忘れられない。

穏やかな時間が流れ、ついに演奏が終わりを迎えた。
華代ちゃんはあの時と同じように、演奏が終わると閉じていた目をそっと開けた。
一瞬、館内が静けさに包まれた。
すると誰かがすくっと立ち上がり、強く拍手をした。
それは華代ちゃんの兄、桃だった。
それに導かれるように、辺りにいる生徒たちがみるみる立ち上がって拍手をした。
僕も反射的に立ち上がって大きな拍手をした。
一人ひとりの拍手が一つになって、壮大な拍手を生み出した。
華代ちゃんを称える言葉が溢れ返るくらいに飛び交った。
華代ちゃんは何度も頭を下げ、とても嬉しそうに、でも何処か恥ずかしそうに微笑んでみせた。
それ以降も、華代ちゃんの演奏は続いた。
華代ちゃんのバイオリンの音色は何時までも聴いていられる。
もっともっと聴いていたいと思える。
日本一のバイオリニストだなんて、知らなかった。

華代ちゃんは日本だけじゃなく、世界中から認められるバイオリニストになれる。
心からそう思った。



2008.8.28




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