スイクン危機一髪 (第4章「風呂場乱入事件」番外編)

スイクンはシルバーの部屋にある陶器の皿から水を飲んでいた。
部屋の主であるシルバーはソファーに腰掛け、小夜の部屋にはないテレビを観ていた。
バトル番組が放送されているのを手持ちの四匹と一緒に観ている姿は真剣そのものだ。
小夜はボーマンダの背をポケモン用ブラシで梳かしていたが、突拍子もない事を言い出した。

『スイクン、一緒にお風呂入ろう。』

“?!”

スイクンは柄にもなく吹き出し、フローリングの床とスイクンの口元に水が飛び散った。
慌てた小夜がティッシュとゴミ箱を手に取り、スイクンの口元を丁寧に拭いた。
シルバーも驚いたのか、目を見開いた。
クロバットとマニューラは鼻の下を伸ばしながら俺も入りたいと主張したが、オーダイルとレアコイルに絶対駄目だと突っ込まれた。

『何時もは外の水道からシャワーホースで浴びてるでしょう?

だからたまにはいいかなって。

四階のお風呂場は広いから、問題ないよ。』

“そういう問題ではない…!”

珍しくスイクンがビシッと突っ込んだ。
バクフーンですら小夜と風呂に入った事がない。
だが一方のエーフィは意外にも平然としていた。

“いいんじゃない?

スイクン、今夜一緒に入ろうよ。”

エーフィの中で、スイクンは小夜の保護者だ。
それにエーフィは小夜と六年もの間一緒に入浴している為、恥ずかしさの欠片もない。

『いいでしょ?』

“駄目だ、お前はもう子供ではないのだから。”

スイクンの説得が始まった。
だが小夜は頑固だ。

『シルバーだって子供じゃないけど皆と一緒に入ってるよ?』

“お前は女の子だ。”

『うん、そうだけど。』

“だから駄目だ。”

『えー、シルバーは一緒に入ってくれたのに。』

「おい…!」

自分の名前が出た事に慌てたシルバーは思い切り赤面した。
小夜は本来の年齢である十歳に近い考え方をする時が稀にある。

「さっさと入ってこい!」

『ちょっと押さないでよ!』

小夜はシルバーに背をぐぐっと押され、部屋から出された。
待ってと言いながらエーフィが小夜を追い掛けた。
シルバーはバタンと扉を閉め、あからさまに溜息を吐いた。
ほっとしたスイクンはシルバーに会釈をした。
シルバーに助けられた。
シルバーは呆れ笑いをしながらスイクンに頷くと、視線をバクフーンに移動させた。

「次はお前かもな。」

“ええっ?!”

バクフーンは猛烈にそわそわした。
小夜の事は兄妹のように思っているし、同じベッドで眠る時もある。
だが風呂となると話は別だ。

“俺、小夜と一緒に入った事あるよ。”

ポケモンたちの視線が台詞の主であるボーマンダへと一斉に向けられた。
ボーマンダはにっこりしていた。

“小夜が四歳で、俺がタツベイだった頃さ。

今は小夜も大きくなったし、無理だけど。”

小さい頃の小夜はそれはそれは可愛らしく、幼いシゲルを一目惚れさせた。
懐かしさに浸るボーマンダを見て、シルバーはポケモンたちの台詞の内容を大体察していた。
一方のスイクンは今後も小夜に入浴を強請られるのだろうかと気が重くなった。
小夜は年齢こそ十歳だが、もう列記とした女性だ。
だがスイクンに懐いている小夜はそれを理解していない。
次はどのように説得するのか、スイクンは就寝時間まで懸命に考えた。



2015.6.10




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