ポケモンたちの事情 (第4章「風呂場乱入事件」番外編)

『や、優しくしてね?』

「乱暴にする訳ないだろ。

ほら、早くしろ。」

『だって恥ずかしくて…。』

「何がだよ。

これから何回もするんだから別にいいだろ。

早くしないと無理矢理するぞ。」

『わわわわかった!』

勘違いしそうな二人の会話に、その場にいたポケモンたちはむず痒くなった。
ピュアなオーダイルとコイルがかあっと顔を赤らめて見た先では、二人がソファーで向き合っており、シルバーが小夜の口内を綿棒で軽く擦っていた。
小夜は口を開けたまま滑舌悪く言った。

『くふぐっはい!』

擽ったいと言いたいらしい。

「はいはい分かったから。」

呆れた様子のシルバーは綿棒を注射器のような容器に入れ、きつく蓋を閉めた。
これはオーキド博士に渡された遺伝子検査キットで、シルバーはオーキド博士から小夜の細胞の定期的な摂取を頼まれている。

『自分で出来るのに、何か恥ずかしい…。』

「お前は妙なところで恥ずかしがるんだな。」

小夜はポケモンたちの前でシルバーに堂々と抱き着いたり、サトシたちがいる前で二度も口付けたのに。

『逆に私が綿棒でシルバーの口の中を擦ったら如何?

恥ずかしいでしょう?』

「そんな事はない。」

『今一瞬瞼が引き攣ったよ。』

小夜の洞察力は末恐ろしい。
これ以上追及されたくないシルバーはソファーからすっと立ち上がった。

「オーキド博士に渡してくる。」

『逃げるのね!』

「じゃあな。」

『私も行く。』

「ついてくるな。」

ぷんすかする小夜とそれを流そうとするシルバーは、何かと言い合いながら部屋を後にした。
その場に残ったポケモンたちに微妙な空気が流れる。
エーフィは複雑そうな面持ちであからさまに硬直していた。
猛烈に爪研ぎがしたい。
ボーマンダがそんなエーフィを慰める。

“まぁまぁエーフィ。

二人は付き合ってるんだから、そんな顔しなくても。”

先日と同じような事を言われ、エーフィは救いの目をスイクンに向けた。
スイクンは小夜に説教する際に最も影響力のあるポケモンだ。
小夜が頼りにしている存在であると同時に、エーフィとシルバーからは小夜の保護者のような位置付けをされている。

“スイクンだって複雑でしょ?!”

“…。”

スイクンは切羽詰まったエーフィに冷や汗を掻き、何も言わなかった。
二人がそういった関係になるまでは時間とタイミングの問題だろう。
実際にシルバーは未遂ながら小夜に手を出しており、更にそれはポケモンたちに筒抜けの状態だ。
おまけに昨日は二人で風呂に入ったという。
その時もシルバーが小夜に手を出さなかったとは思えない。
エーフィが風呂場で二人きりになるのを許したと聴いた時は、ポケモンたち一同が驚いたものだが、やはりエーフィの本音としては複雑らしい。
エーフィはこの中で一番最初にシルバーの手持ちとなったオーダイルを涙目で見た。

“オーダイル、君は?!

複雑だよね?!”

“えっ、俺!?

俺は御主人と小夜が仲良しならそれで…!

ね、コイル!”

“え、僕?!

ぼ、僕もそう思うよ!

マニューラ、君は如何…?!”

“お、俺?!”

可笑しなリレーが始まった。
この話題になって冷静を保てるポケモンはいない。
エーフィはついにガリガリと爪研ぎを始めた。
ボーマンダとバクフーンは苦笑しながら顔を合わせる。
二人の関係を見守るポケモンたちの事情は複雑だった。



2015.4.6




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