再確認

朝食後に小夜とシルバーが小夜の部屋を訪れると、満腹になったポケモンたちが寛いでいた。
ハガネールとネンドールと共に庭で食事をしていたボーマンダとスイクンも戻っている。
シルバーは部屋の扉を開けるや否や、すぐに言葉を発した。

「ゴースト、話がある。」

“…!”

ゴーストの表情が硬くなった。
二人は年始に届いたソファーに腰を下ろした。
白いシンプルな三人掛けのソファーはオーキド博士が購入したもので、繊維が細かくて心地良い肌触りの布地だ。
シルバーの部屋にしかなかったソファーが、小夜の部屋にも置かれたのだ。
シルバーは無表情で腕を組んだ。

「シゲルが帰ってきた、とだけ言ったな。」

“…うん。”

八時の朝食に少し遅れてしまった二人は、シゲルとの再会後にポケモンたちと話す時間が殆どなかった。
当然、ゴーストともきちんと話せていない。

「お前が如何したいのか、最後にもう一度訊きたい。」

最後
不穏な響きをした言葉に、ゴーストは僅かに震えた。
だがシルバーが緩く口角を上げ、その表情を見たゴーストの緊張が少しだけ解れた。

「俺はお前に任せる。」

“俺、俺は…。”

去年、シルバーに自分が如何したいのかを打ち明けた。
その気持ちは微塵も変わらない。

“俺はシルバーのポケモンになりたい。”

小夜が微笑み、シルバーの目を見て頷いた。
通訳がなくともゴーストの意思を確認したシルバーはしっかりと言った。

「分かった。

シゲルと話す。」

後はシゲル次第だ。
だが小夜と交際に発展した自分に、シゲルが簡単にゴーストを渡すとは思えない。

『私、先にシゲルと話してもいい?』

「構わないが、何処まで話すんだ?」

小夜は視線を伏せ、紫の瞳を曇らせた。
エーフィが心配そうに主人を見つめている。
小夜は顔を上げてから言った。

『サトシと同じ程度にしか話さないつもり。』

人間とポケモンの混血である事は、ハテノの森でサトシに話した。
だが未だにシゲルには話せていない。
サトシと同じく、バショウの件は軽くしか話さないだろう。
その一方で、ミュウツーの事はしっかり話すつもりだ。

『シゲルはまだ若いから。』

深く話せば一層重い話になってしまうだろう。
何時か全てを話す時が来るのだろうか。
もし来るとしても、何年も先になるだろう。

「後、もう一つ訊くが…。

俺との事は言うのか。」

『付き合ってる事?』

「そうだ。」

『訊かれたら言おうかな。』

恋愛に関して鈍感な小夜の事だ。
シゲルの恋心も知らずに、シルバーとの交際を嬉しそうに話しそうだ。
シルバーはそれが心配だったのだ。
次にシルバーがシゲルと対面した時、シゲルはどのような反応を見せるだろうか。

『庭に行ってくるね。』

「慎重に話せよ。

感情的になるな。」

『うん。

皆は後で来てね。』

小夜は脚元に擦り寄ってきたエーフィの頭を撫でてから、部屋を後にした。
恋人を見送ったシルバーは参ったように前髪を掻き上げた。
さて、この後如何するか。

“シルバー…。”

シルバーは前方に浮遊してきたゴーストに視線を遣った。

「心配するな。」

流れに任せていれば、何とかなるだろう。
いいや、何とかしてみせる。
エーフィがゴーストを見上げて言った。

“君も分かってると思うけど、シゲルは悪い人じゃない。

寧ろ良い人だよ。

シルバーにちょっと嫉妬するかもしれないけど、それを乗り越えられる人だよ。”

エーフィはシゲルを六年も前から知っている。
シゲルは努力家で、小夜への協力を惜しまない。
心優しい少年だ。

“ありがとう。”

ゴーストは心から感謝した。
此処の皆は温かい。
この温かさをこれからもずっと感じていたい。




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