重ねる日々

昨日の深夜に繰り広げられたバトルは、バクフーンを極度に憔悴させた。
朝になっても、身体を起こそうと思えない。
外の雨音が気持ちすら怠くさせる。
カーペットの上でブランケットを被っているバクフーンを、ボーマンダが口先で優しく突っついた。

“バクフーン、もうすぐご飯だよ。”

“うー、君は普通に起きれるなんて凄いな…あんな過酷なバトルだったのに…。”

“俺も最初はきつかったけど、慣れさ。”

バクフーンはブランケットからのそのそと顔を出した。
ボーマンダの首元で煌めくメガストーンを見ると、メガ進化の瞬間を思い出す。
小夜が掲げたキーストーンと共鳴し、絆の力が更なる進化へと導いた。

“小夜はほんとに強いね。”

“六年前からそうだよ。”


―――本気で来て。

―――本気で来ないと、大変かもよ?


実際に大変だった。
此方の限界を見極める小夜は、闘う相手の能力を最大限まで引き出す。
実際に六年間でエーフィとボーマンダを此処まで成長させた。
二匹が飛び抜けて優秀なのは、小夜による過酷なバトルを繰り返したからだ。
シルバーのポケモンたちがテレビを観て笑っているのを聞きながら、バクフーンは小声で言った。

“ボーマンダ、スイクン。”

遠巻きにテレビを観ていたスイクンはバクフーンを見た。
バクフーンの真剣な表情で、ボーマンダとスイクンも真剣に耳を傾けた。

“俺さ、小夜の予知夢の中に俺がいる気がするんだ。

何となくだけど、そんな気がする。”

シルバーはきっと予知夢の日よりも前に、一度小夜の元を離れるだろう。
だがバクフーンは小夜のポケモンだ。
小夜の傍を離れたくはない。

“強くなりたい。

協力してくれる?”

心も身体も強くなりたい。
もっともっと炎の火力を出せるように。
メガ進化のパワーに負けない程に。
ボーマンダはニッと笑って二度頷いた。
スイクンは静かに頷くと、遠い目をしながら言った。

“私もそろそろ小夜との修行に力を入れよう。”

ボーマンダとバクフーンは目を丸くした。
皆が四ヶ月後に備えている。
スイクン自身もより一層の心構えが必要だと考えていた。
小夜の保護者として、説教担当として。

“何回か小夜とバトルしていたのを見たけど、君は凄く強いよ。”

バクフーンが説得するかのように言うが、スイクンは目を閉じて静かに微笑むだけだった。
バクフーンからすれば、伝説のポケモンであるスイクンは高嶺の花だ。
持って生まれた能力が高く、第六感にも優れている。
だが一方のスイクンは、伝説のポケモンである事はレベルとは関係ないと思っていた。
たとえどのようなポケモンでもその潜在能力を小夜が引き出し、レベルを上げてくれる。
それにポケモンたちは皆がお互いのレベルアップに貢献する。
スイクンが言葉に困っているのを察したボーマンダが話を変えた。

“そういえばさ、エーフィが朝から何だかセンチメンタルだったんだ。”

“あの気が強いエーフィがセンチメンタル?”

バクフーンが物珍しそうに反応し、スイクンは黙ったまま詳細を求めた。
ボーマンダはエーフィの様子を思い出しながら言った。

“何故だか平和を噛み締めていたよ。”

“平和かぁ…確かに。”

バクフーンも同じく平和を噛み締めた。
四ヶ月後にはこの平和が崩れるだろう。
ポケモンたちを頼もしいメンバーだと思っているとはいえ、エーフィは小夜を心配しているのだ。

“きっと予知夢の日が過ぎても平和だ。”

そう言ったボーマンダはタツベイ柄のクッションに頭を預けた。
のんびりとしながらも、発言は本気だ。

“シルバーはサカキとバトルするつもりだし、他にも色々あるだろうけど。

俺は皆が好きだし。”

小夜は特殊な境遇を持つが、それでも傍にいたい。
ハテノの森で小夜を傷付けてしまった時、一度だけ小夜の傍にいる事を後悔した。

もう迷わない。
飽きる程に一緒にいたい。
飽きる事なんて、ないだろうけど。





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