見通し

真夜中、日付が変わる一時間前。
マサラタウンの外れにある海岸で、小夜とバクフーンが対峙していた。
今日は週に二回のバトルの日だが、ボーマンダは既にバトルを終え、メガ進化を解いていた。
他にも監視役のエーフィとシルバー、そしてシルバーを背に乗せて運んだラティオスもいる。
バクフーンが小夜と修行するのは、オーキド研究所内の庭が多い。
ひたすら小夜に攻撃を続け、ひたすら回避され続ける。
だが広々としたこの場所に来れば、回避ばかりしていた小夜は攻撃という手段を手にする。
バクフーンに緊張が走る。

『本気で来て。』

小夜の凜とした声を聴き、バクフーンは目を閉じた。
今日の夕方、小夜に本気でバトルをしたいと申し出たばかりだ。
予知夢が現実となる日が刻一刻と近付く中、小夜が暴走するのを今度こそ止めたい自分がいる。

俺は……平凡なポケモンだ。

エーフィは特殊能力を持ち、ボーマンダはメガ進化し、更にスイクンは伝説のポケモン。
静かに目を開け、背の放出口から炎を噴き出した。
灼熱の炎によって小夜の結界内が明るくなり、揺れる陽炎がバクフーンの覚悟を表している。

たとえ平凡でも、俺は小夜を守りたい。

“…行くよ!!”

「始め!」

シルバーの合図でバトルが始まった。
限界まで空気を吸い込んだバクフーンは、火炎放射を吐き出した。
小夜は片腕をバクフーンに向かって上げると、瞳を青く光らせた。
迫り来る火炎放射は小夜の目の前に出来た薄い水の壁に阻まれた。
小夜の能力に関する知識が浅いラティオスは目を見開いた。
腕を組んでいるシルバーはラティオスに説明した。

「小夜は物質の形状変化能力がある。

空気中の水蒸気を集めたんだ。」

水の壁は炎を防御した後に分離すると、細かい水泡となってバクフーンを襲った。
バクフーンは熱風で対抗し、それらを蒸発させた。
距離を取りながらバトルを見守るシルバーは、ポケットに手を突っ込んで呟いた。

「小夜に地の利があるな。」

“砂浜だもんね。”

脚元のエーフィがそう反応した。
バクフーンにとって海水の水と砂浜の地面は何方も弱点だ。
小夜はエスパータイプであると推測されるが、実際には水や土などの様々な物質を分子レベルで操作してしまう。
そんな事はバクフーンも分かっている。
身体全体に炎を纏うと、地を蹴って小夜に直進した。

『…ニトロチャージ。』

目の前で使用された技名を呟いた小夜は、冷静さを事欠かない。
バクフーンは向上した素早さを維持したまま拳に炎を纏い、炎のパンチに繋げた。
全く動じない小夜に拳を振り下げたが、サイコパワーに包まれた片手で受け止められた。
青色のサイコパワーは炎に包まれた砂浜に映え、その幻想的な光が見るものを癒す。
バクフーンの闘争心が削がれそうになった。

『本気で来てって言ってるの。』

“…!”

『もし私が暴走した時、バクフーンが本気で闘えるように。』

バクフーンにはトキワの森で暴走するボーマンダを攻撃出来なかった過去がある。
味方だからという理由で渋ってしまったのだ。
予知夢の中で小夜は自我を失い、暴走していると思われる。

『本気で闘うのを躊躇うのは、きっと無意識なのね。』

“…かもしれない。”

間近にある小夜の端整な顔は真剣だ。
片手は依然として小夜に掴まれたまま振り払えない。

『でも本気で来ないと、大変かもよ?』

“?!”

砂がバクフーンの身体に絡み付き、身動きが出来なくなった。
小夜がバクフーンから手を離し、至近距離で波導弾を構えた。
格闘タイプのエネルギーが球体として姿を現す。

“簡単には負けない…!”

バクフーンは高温の炎を全身から放出して砂を吹き飛ばし、空いている腕を振り上げた。

「ラティオス、飛べ!」

直感的に足場がなくなるのを察したシルバーは、エーフィを片腕で抱えてラティオスに跳び乗った。
ボーマンダと共に空へ飛び上がると同時に、バクフーンが腕を地表に叩き込み、地震を繰り出した。
炎と砂が混ざり合って舞い上がり、小夜の結界の中に充満した。
エーフィは自らの結界を素早く張り、皆を守った。
砂埃で視界が悪い中、物理的な打撃の音が連続して聴こえ始めた。
小夜が接近戦に持ち込んだのだ。

”バクフーンは無事だろうか…?”

“大丈夫さ。”

ラティオスの呟きにボーマンダが答えた。
ボーマンダは小夜の手で瀕死になった事がない。
小夜は此方が倒れそうになるまで攻撃を続けはしない。

“何だかんだ言っても、小夜は優しいから。”

ボーマンダは先程のバトルで消耗した体力を回復させながら、エーフィの結界の中を飛行した。





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