実年齢

二日後の朝は外出日和の晴れやかな空だった。
オーキド研究所の広大な庭で、小夜とシルバーの二人は旅をしていた頃と同じリュックを背負っている。
更に小夜の腰にはシルバーからクリスマスプレゼントに貰った小型バッグが巻かれている。
そしてネンドールはそんな二人の間で静かに浮遊していた。

『行ってきますね!』

「行ってきます。」

オーキド博士とケンジ、そしてハガネールが見送りに出ていた。

「気を付けるんじゃぞ。」

「楽しんで来てね!」

オーキド博士は大らかな表情をしているし、ケンジもにこにこしている。
一方のハガネールは無言無表情だが、これは亡き彼から伝授された普段の顔だ。
するとハガネールは小夜に手を伸ばされ、高い処にある顔をゆっくりと下げた。
頑丈な顎を撫でられ、優しい目で小夜を見つめた。

『行ってくるね。』

“待っている。”

『うん。』

昨日、小夜に出掛ける事になったと聞いた時、ハガネールもネンドールも反論しなかった。
以前から小夜は旅に出たいと主張していたし、シルバーもポケモンたちも強くなった。
きっと無事に帰って来られるだろう。

小夜とシルバーはネンドールの手に触れた。
小夜は前日に記憶した目的地の映像を脳内に思い描いた。
オーキド博士とケンジの二人とハガネールに見送られながら、ネンドールはテレポートを決行した。
小夜の鮮明な脳内映像により、ネンドールのテレポートは安定した。

『わあ…!』

到着したのはアーケード街となっているキンセツシティの屋上だった。
白い鉄塔の目の前に到着し、背後にあったそれを見上げた小夜は瞳を輝かせた。
広々とした周辺を見渡してみる。
丁寧に刈られた低めのボックスウッドや、お洒落な街灯が規則正しく並んでいる。
花壇に咲く赤い花も整った芝生も、小夜の心を高揚させた。

「帰りも頼む。」

シルバーがネンドールに礼を言うのを聴き、小夜は外出の感動から我に返った。
シルバーはトキワの森の事件の際にも、ネンドールのテレポートに何度も世話になった。

『ネンドール、ありがとう。』

ネンドールは二人に頷いた。
テレポートなどお安い御用だ。
小夜はネンドールの首元にある銀色のペンダントに包み込むように触れた。
そして瞳を閉じ、囁くように言った。

『如何か、貴方の加護を。』

シルバーとネンドールはその様子を静かに見守っていた。
小夜は何かを確信したかのように微笑むと、ネンドールから離れた。

『帰りも宜しくね。』

“無茶はしないように。”

『はーい。』

ネンドールは静かにテレポートし、その場から消えた。
小夜はシルバーに通訳をした。

『無茶しないようにって。』

「スイクンみたいな事を言うんだな。」

シルバーがふっと笑うと、外出の喜びを抑えきれない小夜が駆け出した。
その後をシルバーが慌てて追う。
庭のような屋上は中央を囲う通路のようになっているが、その中央から様々な施設が見えるのだ。
小夜がフェンス越しに下を覗くと、一階部分にポケモンセンターやフレンドリーショップが見えた。
二階部分は住居スペースになっており、高級感のあるベランダが見える。
そして更に、一階の中央には二人が事前に調べていた白い塔が見えた。

「あれが角柱の塔か。」

カロス地方にあるミアレシティとの友好の証に設立されたモニュメントだ。

『何時か、カロスにも行こうね。』

「ああ。」

二人で肩を並べて下を覗き込んでいると、シルバーが小夜の手を握った。
不意にドキッとした小夜は、頬を染めながらシルバーの顔を見た。

「キンセツシティの観光に行くか。」

『うん!』

手を繋ぎながら、二人は歩き始めた。
まだ朝だからか、周囲に人は多くない。
のんびりと散歩する老人や、ポケモンと追いかけっこをする子供など、和やかで落ち着いた雰囲気だ。
オーキド博士が外出場所に此処を提案したのも頷ける。

「お前とこうして出掛けるのも懐かしいな。」

『そうね。』

マサラタウン内を散歩する事はあるが、街へ出たのは何時以来だろうか。

『やっぱりいいなぁ、旅。』

「俺もそう思う。」

『一昨日反対した癖に。』

「心配なんだよ、仕方ないだろ。」

シルバーが空いている手をポケットに突っ込むと、小夜がふと立ち止まった。
前から歩いてきた男女のトレーナーが小夜とシルバーを待ち構えていたからだ。

「突然だけど、其処の君たち。」

「一見トレーナーのようだけど、そうかしら?」

年齢は二十代半ばだろうか。
二人のトレーナーは片手にモンスターボールを持ち、準備万端といった様子だ。
シルバーは小夜を一瞥し、気配感知の結果を視線で求めた。

『ごく普通。』

「そうか。」

ポケモンとポケモンバトルが純粋に好きなトレーナーだ。
特に問題はないだろう。
二人は視線を合わせずに小声で会話すると、トレーナーが話を続けた。

「少し暇してるのよね、ダブルバトルしない?」

「俺たちは此処いらじゃちょっと有名なダブルバトル専門のトレーナーなんだ。」

小夜とシルバーは同時にお互いの顔を見た。
もしダブルバトルを受けるなら、タッグを組むのは初めてだ。

『如何する?』

「売られた喧嘩は買うぜ。」

『うん、私も。』

相手のトレーナーは此方がバトルを受けるのを察したらしく、モンスターボールを投じた。
現れたのはやる気に満ち溢れたプクリンとピクシーだ。
ダブルバトルとなれば、小夜とシルバーが組ませるポケモンは既に決まっている。
二人のポケモンの中で最も息の合うコンビといえば、あの二匹しかいない。
確認し合わずとも、迷いなくモンスターボールホルダーから一つを手に取った。

「行くぜ、オーダイル!」

『行っておいで、バクフーン!』

久方振りのお出掛け。
太陽も空気も、皆が新鮮に見える。
その心地良さが二人と二匹を奮い立たせた。




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