一緒に行こう

シルバーは一階の中庭に隣接している薬剤調合室で、深く溜息を吐いた。
調合したばかりの粉薬をコンパクトな包装機で個装していると、ノック音がした。
考え事をしていたシルバーはすかさず我に返った。
普段はノック音のパターンで誰かを判断するのだが、今回は聴き逃してしまった。

「どうぞ。」

椅子を座ったまま回転させ、扉の方を向いた。
顔を出したのは大らかな顔だった。
シルバーは慌てて立ち上がった。

「邪魔するぞ、シルバー君。」

「オーキド博士。」

「思い悩んでおらんか?」

シルバーは少しだけ目を見開いたが、すぐに逸らしてしまった。
それを見れば、オーキド博士はシルバーが考え込んでいるのが分かった。
二人は今日の午前中まで遡って思い出した。


朝食後、オーキド博士は庭のポケモンたちの様子を録画したビデオを確認した。
これはボーマンダ、スイクン、そしてラティオスが録画してくれた物だ。
確認が終了し、二階の廊下を歩いていた。
すると、階段からバタバタと騒々しい二人分の脚音が聴こえた。

「小夜、待ちやがれ!」

『博士!』

「おやおや、二人共。」

四階から駆け降りてきたのは、小夜とシルバーの二人だ。
相変わらず仲睦まじいが、一体如何したのだろうか。
オーキド博士の前で立ち止まった小夜は、期待の篭った声で言った。

『旅に出たいんです。』

小夜の台詞に驚かされた。
ついにこの日が来た。
小夜が旅に出たいと言い出すのは、時間の問題だと思っていた。

「走ってきたかと思えば、突然じゃのう。」

遅れて到着したシルバーは肩でぜーぜーと息をしている。
すると、隣でオーキド博士の答えを待つ小夜を睨み付けた。

「俺は反対だ。」

予知夢が現実となる日まで、小夜をマサラタウンの外に出すつもりはない。

「レアコイルの進化なら、俺が行く。」

『連れていってよ。』

「駄目だ、留守番していろ。」

『如何して?』

「それくらい自分で考えろ。」

シルバーは拗ねる小夜の手首を掴み、部屋へ戻るように催促した。
オーキド博士は小夜が旅に出たいと言い出したきっかけがレアコイルであると悟った。

「レアコイルを進化させに行きたいんじゃな。」

「すみません、出直してきます。」

「待ちなさい、シルバー君。」

小夜を引っ張ろうとしていたシルバーは思い留まった。
オーキド博士は人差し指を立てながら提案した。

「シルバー君が反対しているのなら、一先ず出掛けるという事で如何かな?」

『出掛ける…?』

オーキド博士の考える旅≠ニ出掛ける≠フ違いは何だろうか。
それは期間の問題だった。

「明後日の朝に出て、その日の内に帰ってきなさい。

それで如何かな?」

『はい!』

オーキド博士に微笑んだ小夜がシルバーの顔を覗き込んだ。
シルバーは険しい表情をしており、納得していないのは明らかだった。

「二人共、談話室で話そう。」

三人は一階の談話室へ向かうと、ダイニングテーブルを囲んだ。
オーキド博士は本棚から一冊の観光ガイドブックを取り出し、とあるページを広げてみせた。
隣同士で座っていた小夜とシルバーがそれを見ると、ホウエン地方のとある施設を紹介しているページだった。

『ニューキンセツ?』

「巨大地下都市の開発現場の跡地じゃよ。」

其処では地下六十九階にも及ぶ巨大ジオフロントの開発が計画されていたが、環境破壊を理由に頓挫した。
だが設置されていた発電機が現在も起動している。
以前は立ち入り禁止だったが、ジバコイルに進化出来る場所として、風の噂で有名になった。
立ち入り禁止だったが、開発跡地に興味を持った侵入者が絶えず、結局は一階部分のみが出入り自由となった。
一階の電気を確保する為、発電機は起動している。
更にはニューキンセツが観光ガイドブックに記載されるまでになってしまった。
ニューキンセツ行きの船まで出ているそうだ。

「見張りの警官も物好きな観光客もいるそうじゃ。

シルバー君も少しは安心じゃろう。」

『シルバー、如何?』

シルバーは観光ガイドブックを無表情で見つめていた。
跡地というと物騒にも聴こえるが、確かに荒野や山へ行くよりは安全だろう。
予知夢の現場は森の中だからだ。

「分かった。」

小夜は久々の外出が嬉しいのか、シルバーに微笑んだ。
それに癒されたシルバーも、自然と頬が緩んだ。





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