志願

“二人共、起きなさーい!”

シルバーが聴いたのはエーフィの声だった。
まだまだ眠っていたい。
だがエーフィが起こしに来たという事は、起床時間を過ぎているという事だ。
薄っすらと目を開けると、小夜が腕枕で眠っていた。
その無垢な顔に癒されると、やはり眠っていたくなる。
それに昨日はラティオスとボーマンダとのバトルがあったし、更には明け方まで小夜と肌を重ねていた。
眠いのは当然だが、目を閉じそうになるのを必死で堪えた。

「エーフィか…。」

“おはよう。”

ポケモンたちは隣の小夜の部屋で眠っていたが、既に起床している。
シルバーの部屋までやって来たエーフィは、二人を五分近くも起こし続けていた。
いい加減に起きて欲しいのだ。
シルバーは寝惚け眼で小夜を軽く揺すった。

「小夜、起きろ。」

『んー…。』

小夜がそっと瞳を開けると、シルバーに紫水晶のような煌めきが見えた。
それに魅了されるのも束の間、上からがばっと抱き着かれた。

「う…!」

シルバーは赤面すると、小夜を抱えて素早く起き上がった。
この抱き締めるような体勢は何時も通りだ。
シルバーは小夜の抱擁でばっちり覚醒した。

「ほら、起きるぞ。」

『うん…。』

重力に逆らっているかのように軽い小夜の身体をベッドの端に座らせ、スリッパを履くように催促する。
小夜はエーフィの姿を見ると、その小さな頭を撫でた。

『おはよう、エーフィ。』

“おはよう。”

小夜に頭を撫でられるだけで、エーフィの機嫌は良くなる。
シルバーはベッドから降りて立ち上がると、未だに眠そうな小夜に手を差し出した。
小夜はその手を取り、のろのろと立ち上がった。
そしてシルバーの頭を見ると、寝起き声で言った。

『寝癖…。』

「煩い、今から直しに行く。」

瞳を閉じそうになる小夜を引っ張り、シルバーは洗面所に向かった。
エーフィは一人で苦笑し、隣の部屋に戻った。

小夜の部屋では、ポケモンたちが朝食前のひと時を過ごしていた。
二人掛けのソファーに座っているバクフーンが何となしにテレビをつけ、皆がそれを観ている。

“あれ、何観てるの?”

戻ってきたエーフィが尋ねると、バクフーンの隣に座っていたオーダイルが答えた。

“バトル番組さ。”

たった今からバトルが開始されるようだ。
室内のバトル場はポケモンリーグの会場程は広くなかったが、バトルには差し支えなさそうな広さだ。
沢山の観客が窓ガラス越しに観戦している。
一人のトレーナーがポケモンを繰り出した。

《ゆけ、ジバコイル!》

スーパーボールから放たれたのは、レアコイルの進化形、ジバコイルだった。
ポケモンたちがレアコイルの反応を見ると、レアコイルは丸い目を更に丸くしていた。

“ジバ…コイル…。”

その目に憧れの色が現れるのは早かった。
レアコイルの隣で浮遊しているゲンガーが、思い出したように言った。

“そっか、レアコイルは最終進化形じゃないんだ。”

三つに分かれていた身体が進化によって再び一つになり、U字磁石は三つ。
頭にあるのは電波をキャッチするアンテナだろうか。
クロバットが画面に映るジバコイルとレアコイルを比較して言った。

“君の方がぴかぴかだね。”

“確かに!”

マニューラが反応したが、レアコイルはテレビ画面に吸い寄せられているかのように夢中だ。
画面の中のジバコイルは相手のミカルゲとバトルしている。
レアコイルは考えた。
オーダイル、クロバット、マニューラ、そしてゲンガーは皆が最終進化形だ。
更にゲンガーとラティオスはメガ進化する。
自分は弱虫、泣き虫、そして引っ込み思案。
それでも修行を重ね、以前よりは強くなったつもりだ。
今後も強くなる過程の中に、最終進化形という通過点があったのだ。

“シルバーに話してみる。”

レアコイルはぽつりと言った。
少しは欲張ってもいいだろうか。





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