ポケモン爺さん-2

ポケモン爺さんはシルバーに石を託すと、早々にホテルをチェックアウトした。
オーキド博士からシルバーを早く帰すように言われていた為、見送りはホテル前で構わないと言った。
別れ際に、シルバーはオーキド博士が宜しく言っていた事を伝えた。
嬉しそうに笑ったポケモン爺さんは、シルバーに感謝を伝えてから隣町へと向かった。
今日もまた珍しい物を求めて。

「……参ったな。」

シルバーは無意識に呟いた。
オーキド博士にどのような顔をしてこの預かり物を渡せばいいのだろうか。
シルバーはこれまた無意識に片手で頭を抱えた。
先ずは小夜の気配感知に頼ろう。
小夜が何か感知すれば、オーキド博士も手を尽くして調べるだろう。

シルバーは民家の並ぶトウカシティを眺めてから、トウカの森に隣接する海岸へと脚を運んだ。
田舎街と森に挟まれた海岸だからか、人は少ない。
空にはキャモメの群れが見える。
週に二回の小夜とボーマンダのバトル場所は海岸だが、それは何時も真夜中だ。
太陽を反射する海の潮風や、長い地平線を新鮮に感じる。
両手をポケットに突っ込み、立ったまま海を眺めた。

オーキド研究所は退屈しない。
オーキド博士の研究には興味があるし、小夜やポケモンたちとの生活も充実している。
同年代のケンジも気さくに話し掛けてくれる。
それでも、外はやはり良いものだ。
きっとポケモンたちもこの海を見たいだろう。
周辺は静かで空気も美味しいし、外に出してやろう。
シルバーがモンスターボールに手を遣ろうとした時。


―――ドゴォォオン!!!


森から轟音がした。
シルバーが弾かれたように顔を向けると、音の方角から煙が上がっていた。
あれはトウカの森の中のようだ。
更に爆発音が聴こえる。
ポケモンバトルにしては派手過ぎる。
あの場へ向かうか向かわないか、シルバーは葛藤した。

「如何する…!」

仮にこのままあれを無視してネンドールのテレポートで研究所へと帰ったとする。
気掛かりで仕方なくなるだろう。
もしかすると後日、トウカの森を訪れるかもしれない。
それもまた小夜を心配させてしまうだろう。
周りで騒々しくする人やポケモンの声が遠く聴こえた。

「チッ!」

大きく舌打ちをしてから、森へと走り出した。
自分はトラブルを引き寄せる才能があるかもしれない。
なるべく速く、且つ周囲に注意しながら全力で走った。


轟音の元となった場所では、一匹のポケモンが複数の男とポケモンに追われていた。
人間が乗るバイクの音が不気味に木霊する。
一人が肩に担いだバズーカ砲でポケモンに狙いを定めた。
砲弾が放たれたが、ポケモンはそれを間一髪で回避した。
再び轟音が響き、木がなぎ倒された。

「逃がしゃしねぇぞ、ラティオス!!」

狙いの的だった幻のポケモン、ラティオスは既に負傷していた。
苦手とする悪タイプのポケモン、ヘルガーとニューラに攻撃され、人間からは砲弾も飛ぶ。
ダメージによって浮遊の速度が落ちてきた。
捕獲されるのは時間の問題だ。
木々の間を縫うように飛んでいたが、敵のポケモンに先回りされた。
背後にもバズーカ砲を担ぐ人間がいる。

しまった……、此処までか。

ラティオスが捕獲されるのを覚悟した時、何処からか電撃が飛んできた。
それは敵のポケモンにも向かったが、訓練されたポケモンたちは上手く回避した。
だが人間のバズーカ砲には直撃し、それは見事に粉々になって破壊された。
人間は予想外の来客に苛立って叫んだ。

「誰だ俺たちの邪魔をするのは!!」

木の陰から一人の人間とポケモンが現れ、ラティオスは目を見開いた。
赤髪に端整な顔立ち、すらりとした体型。
無表情で腰に手を当てるその青年の隣には、険しい表情のレアコイルが浮遊していた。
青年は落ち着きのある声色で言った。

「ポケモンハンターか。」

「だったら何だ。」

その青年シルバーは、ポケモンハンターとそのポケモンたちを見た。
相手の人間は五人、ポケモンは十匹。
ヘルガーとニューラが五匹ずつだ。
レアコイル一匹ではきつい。
それにあのポケモン、ラティオスはかなりのダメージを受けている。
すぐにでも治療が必要だ。

“酷い、許さない、最低だ!”

人間に傷付けられた記憶のあるレアコイルは憤慨した。
だが無闇に攻撃せず、しっかりとシルバーの命令を待っている。
主人はこの状況を打開する作戦を考え付く筈だ。
一方のシルバーもあのラティオスを出逢った時のレアコイルと重ねていた。
必ず救い出してみせる、という強い決意が胸に湧き上がる。
迷彩柄の軍服に身を包んだハンターの一人が唾を吐き捨てて言った。

「正義のヒーローにでもなったつもりか?」

シルバーは今度こそボールに手を遣った。
正義のヒーロー振っているつもりは微塵もない。
だが見捨てる訳にはいかない。
特にレアコイルはやる気満々だ。
シルバーはボールを三つ放ち、オーダイル、マニューラ、ゲンガーを繰り出した。
そして相手に聴こえないように、咄嗟に考え付いた作戦を小声で話した。
その間にも敵のポケモンが攻撃を仕掛けてくる。

「ヘルガー、火炎放射!!」

「ニューラ、氷の礫!!」

攻撃が飛来する中、オーダイルが敵のポケモンたちに向かって走り出した。
だがすぐに地面に伏せた。

「レアコイル、放電!」

伏せたオーダイルの頭上を無数の電撃が飛び、相手の攻撃と真正面からぶつかり合った。
爆発音がする中、オーダイルは再び走り出した。
向かう先はラティオスだ。
オーダイルをマニューラが接近戦で援護し、敵をオーダイルから離しながら闘う。
マニューラが倒しきれない敵はオーダイルが投げ飛ばした。
ラティオスを捕獲しようとする人間の目の前にはゲンガーが立ち塞がり、脚元にシャドーボールを落として邪魔をした。

……何故、助けようとするのだろうか。

ラティオスは赤髪の青年とそのポケモンたちを疑問に思いながら、ドサリと地に落ちた。
するとラティオスの元へ辿り着いたオーダイルが言った。

“此処は御主人たちに任せて逃げよう、頑張って…!”

オーダイルはラティオスの身体の下に入り込み、自分よりも一回り大きな身体を持ち上げた。
ラティオスが僅かに残る力で浮遊し、二匹は進み始めた。
ハンターはそれに気付き、自分のポケモンに素早く命令しようとした。
だがシルバーとそのポケモンたちが立ちはだかった。
シルバーはオーダイルに背を向けたまま言った。

「オーダイル、行け!」

主人の声に後押しされ、オーダイルは振り切るように走った。

「待ちやがれ!!

二手に分れて追え!!」

ハンターが叫んだ時、シルバーは右腕の袖を捲った。
キーストーンの煌めきが姿を現す。

「逃すかよ。」

シルバーのキーストーンが眩く強い光を放った。
その神秘的なパワーに木の葉が舞い上がり、シルバーの赤髪と服が揺れた。
ゲンガーのバングルに嵌められたメガストーンがキーストーンと共鳴し、同じ色の光で敵を怯ませた。
ゲンガーの姿がみるみる変わっていく。
息を呑むハンターたちが相手にしているのは、メガ進化の遣い手だったのだ。
それでも此処まで追い込んだラティオスを易々と諦める訳にはいかない。

「ヘルガー怯むな、追え!!」

ヘルガーはシルバーたちを横切ってラティオスを追うつもりだった。
だが突然身体が金縛りのように動かなくなった。
それは他のヘルガーやニューラ、ハンターたちも同様だった。
脚元を見ると、メガ進化を遂げたゲンガーの影が伸び、自分の影を捕まえていた。

「メガゲンガーの特性は影踏みだ。

倒すまで逃げられないぜ。」

シルバーが構えると同時に、マニューラ、レアコイル、そしてメガゲンガーも改めて戦闘態勢に入った。
この後に追われない為にも、完全に戦闘不能にする必要がある。
この三匹なら確実だという自信がシルバーには満ち溢れていた。

「行くぜ!」



2016.9.29




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