結末-2

洞窟の外で待っていたのはボールの中に入れないゴーストと、意外なポケモンだった。
何処か恋人に似た凛々しい姿に、シルバーは目を見張った。

「スイクン…?」

シルバーが無事に帰ってきた事で、ゴーストは一先ずほっとした。
スイクンは左手首から血を流すシルバーの姿に一度目を見開いてから細めると、空に向かってオーロラビームを放出した。
すると虹色に輝くその光線を目印にしたボーマンダが姿を現し、スイクンの横に着地した。
そしてシルバーの姿を見て息を詰まらせた。
ボーマンダとスイクンはレアコイルがコイルから進化した事に気付いていたが、それを祝福している場合ではない。
ボーマンダは愕然としながら言った。

“シルバー…、その怪我…!”

「ボーマンダ…か。」

シルバーの危険を感じ取った小夜がこの二匹を此処へ送り込んだのだろう。
だがシルバーにはボーマンダの背に乗る体力が残されていない。
するとふらつくシルバーの背後にスイクンが回り、マントの首元を咥えた。

「!?」

“えっ。”

シルバーとレアコイルが怯んだ時には、シルバーはスイクンに持ち上げられてボーマンダの背に乗せられていた。
ボーマンダも一瞬呆気に取られたが、すぐに赤い翼を広げた。
シルバーはランプをボーマンダの背に置くと、腰のボールを一つ取り出してレアコイルに向けた。

「助かった、戻れ。」

レアコイルが心配そうな表情で頷いた。
シルバーを助けられたと思っていいのだろうか。
シルバーは緩く笑うと、レアコイルをボールに戻した。
スイクンが荘厳な声でゴーストに言った。

“お前は私とマサラタウンへ戻れ。”

“分かった。”

ボーマンダは助走する直前に言った。

“先に行く!”

スイクンとゴーストの反応も見ないまま、ボーマンダは即座に飛び立った。
ぐったりと俯いているシルバーは離陸と同時に落下しそうになったが、何とか耐えた。
風でマントがはためき、そのフードが脱げる。
ボーマンダは怒りに任せて言った。

“馬鹿だな!!

小夜が発狂していた理由が分かったよ!!”

普段は間抜けでぼんやりとしているボーマンダがこのように怒鳴るのを、シルバーは初めて聴いた。
耳に響くその声に俯きながら苦笑した。
左手首を握って止血を試みるが、風に流された血がボーマンダの背に落下する。

「悪い…血が…。」

“構わないから、もう喋らないで。”

ボーマンダはシルバーを振り落とさないように飛行し、小夜が待つオーキド研究所へと急いだ。
小夜がこのような状態のシルバーを見たら失神してしまうかもしれない。
だが小夜に早急に治療して貰わなければ、シルバーは危険な状態だ。
よくこのような状態で歩いていたものだと不思議に思う。

ボーマンダは一時間余りで目的地に到着した。
普段は侵入防止の電圧がかかっているフェンスを抜け、小夜が待っている一階のベランダへと向かう。
その背に乗っているシルバーは殆ど意識がなく、気力だけでボーマンダの背に屈んでいた。
だが地表から聴こえた声に目を薄く開いた。

『シルバー!!』

嗚呼、この声を求めていた。
ボーマンダが着地した瞬間、シルバーの身体はぐらりと傾いた。
落下しそうになるのを優美な紫に支えられ、そのまま芝生の上にゆっくりと腰を下ろした。

「………小夜。」

『っ…馬鹿、馬鹿!』

小夜はシルバーの血が付着するのも構わずに、左手首を無意識に握っていたシルバーを強く抱き締めた。
そして両手から癒しの波導を放出すると、その青い光はシルバーの全身を包み込んだ。
目を閉じているシルバーは温かくて心地良い光に包まれていると、身体に力が戻るのを感じた。
一分程心地良さに浸っていると、その光は消えた。
シルバーは傷の痛みがない事を確認するかのように両腕を動かし、小夜を抱き締め返した。

「小夜…。」

『馬鹿。』

「ごめん。」

小夜に謝罪してから閉じていた目を開けると、エーフィとバクフーンがその場にいる事に気付いた。
芝生に両膝を突いていた小夜がシルバーの両肩を押し、シルバーは小夜を離した。
その頬には涙を流した跡があった。
シルバーはそれを拭おうと腕を上げたが、手にこびり付いている血を見て思い留まった。

『死んだら如何するつもりよ。』

「俺が死ぬ訳ないだろ。」

『後少し遅かったら危なかった。』

「…そうだな。」

シルバーの手首の傷は嘘のようになくなっている。
痛みもないし、貧血による怠さやふらつきもない。
小夜の癒しの波導はポケモンの用いるそれと比較すると効果が抜群に優秀だ。
小夜は瞳に涙を溜める。

『傍にいるって言ったでしょう…!

私が嫌だって言っても離れないって言ったでしょう…!』

「……ごめん。」

『ごめんで済むと思ってるなら大間違いよ!』

小夜は涙を零しながら怒りの形相で立ち上がった。
以前も着用していた白いニットのワンピースに血がべっとりと付着している。

『私はもう誰かを亡くすのは嫌!!』

シルバーは眉を寄せ、立ち上がって小夜に手を伸ばそうとした。
だが小夜は一歩下がり、それを拒否する。
エーフィたち三匹は悲痛な面持ちで二人を見守るしか出来ない。

『もしシルバーがいなくなったら…私…私…っ。』

シルバーは小夜の両手首を強く掴み、自分に引き寄せた。
驚く小夜の瞳にシルバーの真剣な表情が映る。

「小夜。」

『何よ。』

小夜はシルバーを涙目で睨む。
シルバーは小夜の後頭部に右手を回し、ポケモンたちがいるにも関わらず、小夜に口付けた。



2015.4.15




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