喧嘩-2

朝七時、オーキド博士は食事室へ向かっていた。
ボーマンダやスイクンが入れない程度の広さの其処では、朝からケンジが朝食の準備を進めている筈だ。
毎日の朝食は小夜とシルバー、そしてケンジの四人で摂っている。
ポケモンたちがいない理由としては、朝食の時間が早く、ポケモンたち全員が起きられないのが一つだ。
もう一つは、ボーマンダとスイクンが食事室に入れない為、ポケモンたちは気を遣っているのだ。
昼食と夕食はオーキド博士が二人にタイミングを合わせられず、中々一緒にならない。
二人の昼食の場所は何方かの部屋だったり、庭の芝生の上にレジャーシートを敷いたりする。
ネンドールとハガネールが一緒の時も多々ある。
小夜はよくサンドイッチを作り、シルバーに振る舞っている。
それにあの二人は仲睦まじい。
二人にしてやるのも大事だろうと思い、オーキド博士とケンジは密かに気を遣っているのだ。


―――ガチャ


「おや?

おはよう。」

『博士、おはようございます。』

「オーキド博士、おはようございます!」

助手である二人がオーキド博士に挨拶をした。
小夜は既に食事を終え、普段はケンジが担当である朝食作りをしていた。
小夜が三人分の目玉焼きを焼いている隣で、ケンジが小夜の食器を洗っていた。

「小夜、もう食べ終わっておるのか?」

『はい。』

「小夜さんは僕が此処に来た時には、木の実パンを食べ終わっていたんです。」

「うむ。」

四人はバランスの良い朝食を摂るよう心掛けているが、今朝の小夜はパンとモーモーミルクだけだ。
オーキド博士はナチュラルベージュをした四人掛けのダイニングテーブルの椅子に腰を下ろした。
そして大らかな声で微笑みながら言った。

「シルバー君と喧嘩でもしたのかな?」

『えっ…。』

フライパンから皿に目玉焼きを移した小夜は、思わず手を止めた。
無垢なケンジは隣でてきぱきと手を動かしていた小夜を不思議そうに見た。

「顔に書いてあるようじゃが。」

『…。』

小夜は哀しげに微笑むと、三人分のマグカップにモーモーミルクを注いだ。
そして温める為にレンジに入れ、慣れた手付きでボタンを押した。

『……話したくないって言われちゃいました。』

小夜がオーキド博士を見ると、意外な反応を見せていた。
ポケモン新聞を手に取っているが、それを読まないままうんうんと深く頷いていたのだ。

「喧嘩する程、仲が良い!

なーに、すぐ仲直りするじゃろう。」

小夜は頑固だし、シルバーは照れ屋だ。
お互いに中々謝罪出来ずにいるのだろう。
だがオーキド博士は二人が相性の良い性格をしていると思っていた。
能力を持ち合わせる小夜は優秀ながらも繊細且つ寂しがり屋で、それをシルバーは上手く補っている。
小夜が無茶をしてもシルバーが監視しているし、予知夢といった事態に直面してもシルバーは冷静に対応している。
そして小夜がポケモンと人間の混血である事実を真っ向から受け止めている。
更にシルバーはオーキド博士が簡単に気付く程のツンデレだ。
小夜に対して、時折ふいっと顔を背けたり辛辣な言葉を吐くが、スルー能力のある小夜はそれを気にしない。
それが本来のシルバーではないと十分に承知しているのだ。
小夜はシルバーが心の内に秘めている闇を理解し、それを癒す力がある。

「僕もすぐ仲直り出来ると思います。

二人はお似合いだし!」

ケンジは助手として先輩である小夜に敬語を使用する。
小夜は二人の様子に呆気に取られたのか、瞳を見開いていた。

『あ、ありがとう…ございます。』

小夜はレンジからマグカップを取り出し、テーブルに三人分をきちんと並べた。

「君はシルバー君と喧嘩しながらも、こうやって朝食の準備をしてやっておるじゃろう。」

『…。』

普段は早起きの得意なケンジが朝食の準備を全て担当しているが、今日は小夜も手伝っている。
ケンジは小夜がシルバーを避ける為に早く朝食を摂り、信頼するオーキド博士や助手仲間の自分の為に朝食を作っているのだと思っていた。
シルバーの分はそのついでだと思っていた。
だがオーキド博士の言葉を聴いていると、そうではないのだと分かった。
小夜はシルバーの分も作る事によって、無意識の内にシルバーへの信号を発しているのだ。
その小夜はオーキド博士に向かって緩く微笑んだ。
紫の瞳にはシルバーを恋しく思う寂しさの色が見て取れた。
その時、小夜は四階にあるシルバーの部屋から気配が移動するのを感じた。

『そろそろシルバーが来るので、私は失礼します。

ケンジさん、後は任せてもいいですか?』

「勿論構いませんけど、本当に彼に逢わないんですか?」

『はい、少し時間が欲しいんです。』

小夜は扉の前で二人に頭を下げ、部屋から出ていった。
ケンジは食器ラックに食器を収めながら言った。

「小夜さん、元気がなかったですね。

大丈夫でしょうか…。」

「心配いらんよ。」

オーキド博士は本当に何の心配もないようで、マイペースにモーモーミルクを啜った。
二人共今は辛いかもしれないが、これを乗り越えれば絆は更に強くなるだろう。
オーキド博士は二人が抱えている問題にシゲルが関わっている事を知らない。
そしてシゲルのゴーストがシルバーと共に行動している事も知らない。





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