様子見

シルバーと期間限定で別行動になってしまった小夜は、キキョウシティの南に位置する洞窟前のポケモンセンターから出発した。
ヒワダタウンのポケモンセンターへ向かって、ボーマンダの背に乗って移動している。
頭上には太陽、目下には繋がりの洞窟がある。
エーフィとバクフーンはモンスターボールの中で待機している。
帽子が飛ばないように押さえている小夜に、ボーマンダが話し掛けた。

“シルバーはこの洞窟の中?”

『うん。』

小夜はシルバーと別行動になった当日だけ、ポケモンセンターに宿泊した。
その翌日である今日、出発した。
気配を追ってみると、シルバーはこの洞窟の中にいる。

『見たところ、進んだのは全体の三分の一ってところかな。』

迷わなければ、二日程度で抜けられる長さの洞窟だ。
シルバーは迷わずにヒワダタウンに到着出来るだろうか。
小夜と出逢うまでの二年間、シルバーは一人で旅をしていたと言っていた。
旅の経験は豊富な筈だ。
それは今までシルバーと共に旅をしてきた小夜がよく理解している。
シルバーは単独で旅を進める術を身につけている。
黙考している小夜に、ボーマンダは気になっていた事を尋ねた。

“あの怪しい人の気配は?”

『黒マントの人?』

ボーマンダは前を向いたまま頷いた。

『その人も洞窟の中。

でもシルバーより随分先まで進んでる。

他に仲間がいるような気配はないから、一人でシルバーを探してるみたい。』

シルバーはサカキの実の息子だ。
ロケット団側からすれば、手荒な真似は取り難い。
大々的に捜査しているという訳ではなさそうだ。
そのせいで、小夜は昨日までシルバーに追手がいると気付けなかった。

『その男はきっとキキョウシティのポケモンセンターでも、シルバーを見なかったかって聴き込みをしたと思う。

シルバーがヒワダタウンへ向かったと予想する筈よ。

ヒワダタウンに着いたら、暫くシルバーを待ち伏せするんじゃないかな。』

小夜はボーマンダの高速飛行によって一足先にヒワダタウンへと先回りするつもりだった。
数日、ポケモンセンターからシルバーと男の気配を追い、遠くから経緯を窺うつもりだった。
ボーマンダは長い首を曲げ、目で小夜を見た。

“波導でシルバーの様子を見ないの?”

小夜は苦笑した。
シルバーと別行動になって以降、波導でシルバーの様子を一度も見ようとはしなかった。
ポケナビの存在に気付いていたが、通話しようともしない。

『シルバーが連絡してくるまで連絡しないもん。』

妙な意地を張る小夜は、不貞腐れた顔をボーマンダに見られたくなかった。
腰のバッグを漁って木の実を取り出すと、前方に投げた。
毎度ながらボーマンダはそれを上手く受け取って頬張り、困ったように笑った。
主人である小夜とシルバーの関係は歯痒いし、じれったいし、もどかしい。
きっと自分以外の手持ちポケモンの皆もそう思っている筈だ。
早くくっついてしまえばいいのに。
オーダイルと同じく、ボーマンダはひっそりとそう思っていた。

小夜はリュックからクリームパンを取り出して頬張り始めた。
このパンはフレンドリーショップでシルバーと共に購入したものだった。
この数ヶ月間、ずっとシルバーと旅をしてきて、シルバーの好みが自然と分かってきた。
プリンが好きな小夜と違って、シルバーは甘いものが苦手で混じり気のないシンプルなものを好む。
トレーナーが頻繁に利用するフレンドリーショップを二人で訪れる機会が多いが、シルバーはジュースではなくミネラルウォーターを選ぶ。
小夜が訊いたところ、シルバーにはミネラルウォーターが必需品らしい。

『寂しいって思ってくれてるかな?』

小夜は視線をシルバーの気配がある場所から外さないまま、そっと呟いた。
その微かな呟きは、ボーマンダの耳にしっかり届いていた。

“間違いなくそう思ってるよ。”

小夜はそれを聴いて瞳を見開いたが、すぐに微笑んだ。
ボーマンダの高速飛行によって長髪が顔に掛かり、それを手で優雅に掃った。
ボーマンダの大きな逞しい背に並んで乗っていたシルバーは、目下の洞窟の中だ。
小夜が平気な風圧を少しでも避ける為に身体を屈めるシルバーは今、隣にいない。


―――能力を使って皆を守る強いお前も、大切な人間を亡くして哀しむお前も、俺は好きだ。

―――お前が人間じゃない事も、あいつを想い続ける事も、受け止める覚悟はある。


―――俺はお前が好きだ。


今までシルバーがくれた言葉の数々を思い出すと気恥かしくなる。
小夜の頬がほんのりと赤く染まったが、その表情はとても穏やかだった。

小夜はシルバーに言いたかった。
ありがとう、と。
シルバーには幾ら感謝しても足りなかった。




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