別行動

「はぁ…。」

繋がりの洞窟の入口を前に、シルバーは深々と溜息を吐いた。
もう夕刻にも関わらず、宿泊予定だったポケモンセンターから飛び出してしまい、此処まで歩いてきた。
勿論、コイルは受付から受け取ってある。
小夜に触れた感覚が身体から離れない。

「あいつのあんな顔、初めて見たな…。」

シルバーから与えられる甘い刺激に、息を荒くして反応していた小夜。
その表情は魅惑的で、シルバーの欲は一層唆られた。
よくあの状況で欲望を抑え込んで部屋から出られたものだ、とシルバーはつくづく思った。
リュックから洞窟を照らす為のランプを取り出そうと思い立った時、はっと気付いた。
ランプは小夜が所持している。
以前まで二つあったランプの内、一つはシルバーが小夜に告白した時に割れてしまった。
シルバーは少し考えた後、モンスターボールを二つ取り出した。

「オーダイル。」

シルバーの手持ちポケモンの中でリーダー的存在であるオーダイルが、シルバーと向き合うようにその場に放たれた。
シルバーはオーダイルのボールを片付けると、もう一つのボールを見つめた。

「今、ランプがない。

フラッシュはこいつに頼む。」

シルバーの手持ちポケモンの中でフラッシュを使用可能とするのは、たった一匹だけだ。
シルバーはそのポケモンのレベルを把握出来ていない。

「お前にはフォローを頼む。」

野生のポケモンとの戦闘はオーダイルに一任する。
それを悟ったオーダイルは頷いた。
シルバーは手に持っていたボールを放った。
其処に現れたのは、手持ちに加わったばかりのコイルだった。
その身体にある傷を見たシルバーは、一瞬眉を寄せた。

「洞窟に入る。

灯りを頼めるか?」

コイルは身体のU字磁石をくるくると回転させ、肯定を表現した。
若干シルバーに対して緊張しているコイルだったが、シルバーはそれに気付かない振りをした。

「よし、行くぜ。」

シルバーと二匹は暗闇に包まれている洞窟の中へと入った。
以前にも、シルバーは小夜と繋がりの洞窟へ脚を踏み入れた。
だが前回使用した入口はキキョウシティの東にあり、今回の南の入口は初めて利用する。
今は案内役の小夜もエーフィもいない。
シルバーは迷わずにヒワダタウンへ到着出来るのか、少しばかり不安だった。
野生のポケモンに対処する役目を負ったオーダイルは、先頭を歩いている。
コイルはU字磁石に電気を帯びさせ、シルバーと距離を取りながらも、その隣で周囲をほんのりと照らしている。
シルバーはコイルの様子を時折覗いながら歩き、その間にも様々な事を思考した。

黒マントの男はキキョウシティのポケモンセンターでも「シルバーを見なかったか」と同じように聴き込みをした筈だ。
タウンマップ通りに進むと、キキョウシティの次はヒワダタウンだ。
宿泊予定場所だった先程のポケモンセンターでは、小夜が操ったジョーイに「シルバーを見ていない」と言わせた。
あの男はシルバーが先程のポケモンセンターに立ち寄らずにヒワダタウンへ向かった、と予想するだろう。
男はヒワダタウンで待ち伏せしている可能性がある。
男の気配が何処にあるのかを小夜に尋ねてから部屋を出ればよかった。
後悔しても遅かった。

シルバーが思考を巡らせていると、先頭を歩くオーダイルが振り返ってきた。
そして小指を立て、何かを言った。
小指という事はつまり――

「小夜か?」

オーダイルは頷いた。
シルバーは悔しそうに苦笑した。

「一週間だけ別行動になった。

ボールの中から聴こえていたんじゃないのか?」

小夜から聴いた話だと、モンスターボールの中にいるポケモンは外を覗えるらしい。
ボールの中からどの程度まで外界の音が聴こえるかは、ボールの種類によって全く違うようだ。
だがボールの奥底にいる事によって、音を聴かない事も可能らしい。
外界が煩くとも、ボールの中は眠る時に快適だ。
通訳の小夜がいない今、シルバーが分かるのはオーダイルの肯定と否定くらいだ。
やはり小夜がいないと不都合を感じる。
其処でシルバーははっとした。

「待てよ…それじゃあ…。」

小夜とあれやこれやとしていたのも、聴こうとすれば聴こえていたという事になる。
シルバーが顔を一気に真っ赤にすると、体毛が青いオーダイルまで同じように真っ赤になった。
シルバーが勢いよくコイルを見ると、コイルまでほんのり身体を赤く染めていた。
オーダイルはシルバーが理解出来ないにも関わらず、必死に弁解を始めた。

“べべべつに聴き耳じゃないぞ御主人!

ちょっと気になってほんのちょっと聴いちゃっただけなんだ!”

「………。」

シルバーはがっくりと項垂れた。
今後もポケモンたちが入っているボールを持ち歩いていれば、小夜との事情は全て筒抜けという訳だ。
小夜に告白した際は皆が手製の風呂場にいたからよかったが、襲いかけたのを聴かれてしまったのは迂闊だった。
一週間後、エーフィにどのような顔をされるだろうか。
実に怖い。


―――…じゃあ…ぎゅってして。


可愛いにも程がある。
不覚にもリミッターが外れてしまった。
小夜は一週間分だと言ったが、自分たちはそんなに抱き合ったりしていない気がする。


―――シルバーならいいよ。


あれは如何いう意味だ?
ああいう意味しかない、よな。
あいつは俺の事を、間違いなく――

オーダイルは頬を染めるシルバーをじっと見た。
早く主人と小夜がくっつけばいいのに、とずっと思っていた。
オーダイルが見たところ、小夜は間違いなくシルバーが好きだ。
やはり小夜の中で亡き彼が引っ掛かっているのだろうか。
オーダイルは二人が時渡りの件で頭を悩ませているのを知らない。

「一週間後に何処で待ち合わせるかすら約束していなかった…。」

普段つんつんしているシルバーが項垂れているのを見て、オーダイルは自分の左手首を右手で指差した。
それを見たシルバーは、自分の左手首へと視線を送ってみた。
其処には小夜と色違いの黒いポケナビが装着されている。
共に旅をしている中でポケナビを小夜との通話に使用する頻度は数える程しかなかった。
ふらりと何処かへ出掛けた小夜の現在地を確認する為に通話した程度だ。
特に使用するのは時間やタウンマップの確認であり、とても便利だ。

「掛けろ、と?」

通話したとして、何から話せばいいんだ?
襲ってごめん…?
それとも可愛かったぜ、とか?

「無理だ!

俺からは絶対に掛けねぇ…!」

シルバーは肩まである赤髪をがしがしと掻いた。
これは混乱した時のシルバーの癖だった。
ぼさぼさになったその髪を手櫛で整えてくれる小夜は此処にはいない。
何時の間にか、小夜に依存していたのかもしれない。




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