2-1

匡近と定食屋で飯を食った後、家に帰って布団に寝転んでみても、落ち着かなかった。
無意識に思い出すのは、あの女の顔だ。
一人の女が頭から離れないなどという事態は初めてだ。
自分に何が起こっているのか、全く理解できなかった。

一向に眠れる様子がなかった俺は、隊で修練用に借りている道場へ向かった。
そこで打ち込み稽古をしてから任務へ向かい、朝方になってから家へと帰ってきた。
寝不足の俺を家の前で待ち伏せしていたのは、やはり匡近だった。
匡近も任務で忙しい筈なのに、わざわざ俺の家まで出向くとは。

「チッ…来たのかよ」
「俺が連れていかないと、お前は蝶屋敷に行こうとしないだろ」
「別について来なくても一人で行く」
「そう言って行かないつもりだろ?
それよりも、怪我はどうだ?」
「何も問題ねぇよ」

あの女に巻かれた包帯は、浴室で水を被った際に解いてしまった。
解く時、何故か躊躇ってしまった。
貰った塗り薬は、任務前に適当に塗った。
匡近が当然のように蝶屋敷へ歩き出したから、俺も溜息をつきながら横を歩いた。

「円華ちゃん、いたらいいな」
「あの女に逢いに行く訳じゃねェ…」

匡近に肩を小突かれて、俺は口元を歪ませた。
逢いに行く訳ではない。
時間があれば治療に来いと言われたから、嫌々ながら行ってやるのだ。

「今日はちゃんとお喋りしろよ」
「するかよォ」
「話すと楽しいぞ?
円華ちゃんは笑顔が可愛いしさ」

そうだな。
………オイ、そうだなって何だよ。
俺はあの女の笑顔が可愛いと思ってんのか?

「おーい、実弥?
視線が異次元に飛んでるぞ?」
「何でもねェ…!」

俺は匡近から顔をプイッと背け、不機嫌なまま歩き続けた。





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