3-1

「円華をクソガキだなんて!」
「そうですよ、酷いです!」
「あの人、円華様に酷過ぎます!」
「カナエ様に言いつけましょう!」
「み…皆さん、落ち着いてください」

厨でアオイ、きよ、すみ、そしてなほが大騒ぎしている。
夕餉のおはぎを小皿に一つずつ載せる私は、アオイたちを必死で宥めた。
おはぎは私の得意料理だ。
一年前まで一緒に暮らしていた家族も、私のおはぎを好きだと言ってくれた。
アオイは急須のお茶を湯飲みに注ぎながら、先刻の機能回復訓練を思い出しているようだった。

「湯飲みで円華に勝てないから八つ当たりするなんて、どっちがガキよ。
円華は鬼殺隊でも有名な美人なのに!
あの人の目は腐ってるのよ!」
「私が何か嫌われるようなことをしてしまったのだと思います」

不死川さんと顔見知りになったのは、確か半年程前だ。
この蝶屋敷で何度か不死川さんに治療をした。
不死川さんは不定期ながらも私に傷を見せに来てくれたのを覚えている。
私の方は、仲が悪くないと勝手に思っていた。
人相が悪くて血気盛んだと噂されている不死川さんを、優しい人だとさえ思っていた。
きっと私は知らないうちに不死川さんの気に障るようなことをしたのだろう。
睨まれるのが顕著になったのは、不死川さんが入院してからだ。

「…どうして睨まれるようになってしまったのでしょうか」

何がきっかけだったのか、それすら分からない。
ただ不思議なことに、睨まれているからといって、怖いとは思わないのだ。
嫌われているとは思うけれど。
哀しげに視線を落とす私に、アオイが険しい表情で提案した。

「接近禁止令を出してもらうのもありよ?
せめて蝶屋敷の中だけでも」

きよたち三人もそれに賛同したけれど、私は首を横に振った。
別に暴力を振るわれた訳ではないし、酷く罵倒される訳でもない。
睨まれたり、クソガキだと悪口を言われる程度だ。
本来は優しい人だと知っているからこそ、接近禁止令など不要だ。
それに、重傷を負った人に多いけれど、先が見えなくて精神的に不安になる場合がある。
そういう人の対応をしてきたからこそ、不死川さんの態度程度なら我慢できる。
なほが可愛らしい涙目で私の隊服を掴んだ。

「円華様…私あの人怖いです」
「大丈夫ですよ、何かあったら湯飲みをぶっかけてやるんですから」

私がそう言うと、きよたちは笑ってくれた。
アオイが両手を腰に当てて言った。

「さあ、円華は任務でしょう?
準備してらっしゃいよ」
「ありがとうございます、アオイ」

私がアオイを呼び捨てにするまでには、時間がかかった。
何処でも誰にでも敬語で話してしまう私に、アオイは友人なんだからどうしても呼び捨てにして欲しいと懇願した。
呼び捨てには慣れたけれど、未だに敬語は抜けない。
敬語はきよたちに対しても同じで、側から聞けば変だと思う。
私は厨を出る前に、皆に笑顔で言った。

「私は任務に出て鬼を斬るより、皆とここで仕事をする方が好きなんですよ」
「そっ、そう?
それは良かった!」

普段通りにツンツンして見せているアオイが、頬を赤らめて照れているようだった。
きよたち三人も目を潤ませて喜んでくれた。
私は四人に微笑んでから、厨を後にした。

私は師範のように鬼を哀れむことができない。
醜い鬼を殲滅するべく、今日も私は無慈悲に日輪刀を振るう。





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