24

千寿郎さんに見送られて煉獄家を後にした私は、杏寿郎さんと二人で畦の道を歩いていた。
見晴らしのいい景色の中に、私たちしかいない。
手を繋いでいると、まるでこの世に杏寿郎さんと私だけしかいないように感じる。
私は杏寿郎さんに肩からぴったりと寄り添った。

「寒いか?」
「いえ…ただ傍にいたくて」

すると、立ち止まった杏寿郎さんに優しく抱き締められた。
夕焼け空の下で、炎柱の羽織が柔らかな風に揺れる。

「父上は言っていたな。
俺たちに明日の命の保証はないと」

私は小さく頷きながら、杏寿郎さんの背中に両腕を回した。
広くて逞しい腕の中を、とても愛おしく思う。

「君は覚悟があると話していたが、怖くはないのか」
「怖いに決まっていますよ。
杏寿郎さんを失うと思うと…」
「俺も同じだ。
君を失いたくない」

今、私たちはここにいる。
こうして互いの温もりを感じることができる。

「あなたを信じていますから」

杏寿郎さんは私の元へ必ず帰ってくる。
たとえどのような状況になろうとも。
私だって、這いつくばってでも杏寿郎さんの元へ帰る。
杏寿郎さんは優しく笑うと、改めて私の手を両手で握った。

「俺と夫婦になってくれるか」

杏寿郎さんからの真っ直ぐな言葉。
私は幸福感で胸がいっぱいになると、涙まで溢れてきた。

「俺には君しかいない。
君にしか俺の妻は務まらない」

私の目から零れ落ちる涙を、杏寿郎さんは親指で優しく拭った。
この人になら、自分の生涯を捧げられる。
私は躊躇いなく返事をした。

「喜んで」

私たちは手を握り合いながら、唇を重ねた。
そして、互いの額を触れ合わせながら言った。

「これからもずっと、共に生きよう」
「ずっとですよ?」

これから新しい日々が始まる。
太陽のように温かな杏寿郎さんに、私は添い遂げる。
これから先、二人一緒なら胸を張って生きてゆける。

私はどのような未来も受け入れなければならない。
きっと、それが柱の妻になるということだ。
想像もしないような哀しい未来が待ち受けていたとしても、私は杏寿郎さんを生涯に渡って愛し続ける自信がある。

いつの日か、私は杏寿郎さんを残して命を絶たれるかもしれない。
もしかするとその逆で、杏寿郎さんが私を残して先に逝くかもしれない。
それでも、私は杏寿郎さんを全力で愛し抜きたい。
どのような未来が私たちを待ち受けていたとしても。



2024.3.18




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