13-2

那桜は朝餉を振る舞ってくれた。
特に薩摩芋の味噌汁が絶品で、俺はうまいとわっしょいを止められなかった。
ぬか床を日々混ぜて漬け込んでいるという漬物は、大根も蕪も全て美味だった。

「近々米俵を持ってこよう!」
「重くありませんか?」
「それも鍛錬のうちだ。
俺は君の作った飯をまだまだ沢山食べたいからな!」

那桜は出立する俺を門戸まで見送りに出てくれていた。
日輪刀を腰に携え、那桜の朝餉を腹一杯に食べた俺は、活力に満ち溢れている。
那桜が俺に赤い風呂敷を差し出した。

「握り飯です。
気に入ってくださった漬物と高菜を具にしてみました」
「よもや!ありがたく頂戴する!」

小腹が空いた時にいただくとしよう。
風呂敷を手渡した那桜は、俺を見上げて微笑みながら、寂しそうな目をした。
そのような表情をされると、別れが惜しくなる。

「離れがたいな」

俺は右手を伸ばし、那桜の柔らかな頬に手を添えた。
その手に己の両手を重ねる那桜は、美しい瞳を潤ませた。
袖の下から覗く左腕には、確かに傷痕一つ残っていない。

「また文を送る」
「お待ちしております」

那桜は頬から伝わる俺の手の温もりに、目を閉じた。
そして、俺と視線を合わせた。

「杏寿郎さん」

俺は目を見開き、息をするのを忘れた。
全集中の常中すら抜けてしまう程だった。
那桜が初めて、俺を下の名前で呼んでくれた。

「私はいつもここで杏寿郎さんを思っております」

少しばかり頬を紅潮させながら、那桜は真っ直ぐに伝えてくる。
愛しくて愛しくて、仕方がない。
俺は那桜に顔を寄せると、触れるだけの口付けをした。

「どうかお気を付けてください」
「ありがとう、那桜」

君の為に、俺は必ず帰ってくる。
最後に、俺は那桜の耳元で囁いた。

「君を愛している」

那桜は頬から耳まで可憐に紅潮させると、更に瞳を潤ませた。
その一挙一動も全て愛おしく思う。
那桜の反応に満足した俺は地を蹴り、消えるようにその場を後にした。
ゆっくり歩けば、何度も振り返ってしまうだろうから。



2022.2.23





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