23-2

近くなったように感じていた距離が、また遠退いた。
そんな感覚に苛まれて、心に亀裂が入ったように感じた。
深夜の談話室に、俺とフレッドは二人だけだった。
俺は羊皮紙に羽根ペンを走らせようとしていたけど、さっぱり集中出来ない。
テーブルに突っ伏して、盛大に溜息をついた。

「俺もあの猫はアフロディーテだと思ってた」

そう言ったフレッドは課題を広げもせずに、暖炉の前のソファーでだらだらしている。
特別授業とやらを覚悟しているらしい。
俺はぐったりと力なく言った。

「アフロディーテと猫には共通点が多過ぎる」

アッシュブロンドの髪色と体毛に、レイブンクロー色の瞳。
顔立ちも同じ美形で、ルーナと共に行動していた。
そして、あの視線の絡み方。
それらの共通点を考慮すれば、アフロディーテと猫が同一人物であると考えるのは自然だ。

「そんなに落ち込む必要があるかい?」
「フレッドには分からないさ」

呑気でいられる片割れが羨ましくて仕方ない。
シリアスな俺に嫌気がさしたのか、フレッドはのんびりと立ち上がった。

「俺はお先に寝るぜ?」
「どーぞお好きに」

俺はフレッドを手でシッシッと払う仕草をした。
今は一人にしてくれ。
フレッドは欠伸をしながら、螺旋階段を上がっていった。
俺はついに羽根ペンを置き、猫が座っていたソファーをあの時のように見下ろしてみた。
視線が合う感覚が同じだったから、猫がアフロディーテだという自信があった。

―――俺に何か話したい事、ない?

そう言った時、アフロディーテは微かに動揺していた。
猫のアニメーガスである事を、俺に話してくれるんじゃないかと思った。
でも、全て違ったんだ。
アフロディーテが遠くて、手が届かない。
もっと近付きたいのに。
俺は羊皮紙を破り、ぐしゃぐしゃに丸めてから暖炉の火に放り込んだ。
課題も特別授業も、もう知るか。
その時、談話室の扉が開いた。

「…!」

姿を現したのは、あの猫だった。
何故、グリフィンドール寮を訪れたんだろうか。
猫は俺を見ても動じる事なく、ソファーの上に移動した。
俺は慎重に猫に近付き、片膝をついて視線の高さを合わせた。

「なあ、猫」

君は本当にアフロディーテじゃないのか?
香箱座りをした猫に手を伸ばし、優しく頭を撫でた。
目を閉じた猫は、ゴロゴロと喉を鳴らした。

「また一緒に寝るかい?」

この体毛がふわふわで気持ち良くて、よく眠れるんだよな。
俺はスッと立ち上がった。

「ちょいと待っててくれよ」

猫に優しくそう言うと、羊皮紙や羽根ペンをほったらかしにしたまま、螺旋階段を上がった。
卑怯かもしれないけど、俺には特殊な手段がある。
アフロディーテを信用していないような行為だと思って、ずっとそれを避けていた。
でも今、使う時だ。

寝室に入った俺は、フレッドが寝ている隣でルーモスを唱えた。
そして、ベッドの下に隠してある羊皮紙を引っ張り出した。
俺たちが一年生の頃、フィルチの管理室から盗んだ代物だ。
古ぼけた羊皮紙に杖を当て、囁いた。

「われ、ここに誓う。
われ、よからぬ事を企む者なり」

忍びの地図≠広げると、ホグワーツの城内の地図が蜘蛛の巣のように現れた。
誰が何処にいるのか、全て記されている。
猫はまだグリフィンドールの談話室にいるだろうか。
心拍数が急激に上がるのを感じながら、記されている名前を確認した。
ルーモスの光に灯された名前に、気が動転した。



2019.10.4



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