6-2

新しく発明した花火を試そうと、俺とフレッドは禁じられた森の前までやってきた。
森は鬱蒼としていて、暗くなり始めた茜色の空の下で不気味な雰囲気がある。
小屋の傍で薪を割っていたハグリッドが、俺たちの姿を見つけた。

「ウィーズリーの双子じゃねえか。
また何か企んでるんじゃねえだろうな」
「問題ないさ。
今日は小屋を燃やしたりしないぜ、多分だけど」

フレッドが笑ってみせた隣で、俺は目を見開いた。
森の奥に、見覚えのある塊がほんの小さく見えた気がしたからだ。
俺は花火の箱を放り投げ、がむしゃらに走り出した。

「おい、ジョージ!」
「森に入るんじゃねえ!」

俺はフレッドとハグリッドの声を無視し、森の中へ駆け込んだ。
木々に囲まれると余計に薄暗くて、走りながら杖を取った。

「ルーモス!」

杖先に光が灯り、それを頼りに前へ走った。
絶対に、見間違いじゃない。
何処かにいる筈だ。
俺が木の葉を踏む音と、緩やかな風の音が耳を掠めた。
息を切らしながら立ち止まった時、其処にはあの不思議ちゃんがいた。
そして、その足元には猫がいた。
さっき見えた塊は、この猫で間違いない。
不思議ちゃんのルーナが俺に振り向いた。

「あれ?双子の片方だ」
「やあ、ルーナ。
俺はジョージの方だよ」

俺がこんなにも全力で走ったのは訳があった。
また裸足になっているルーナの足元で上品に座っている猫が、アッシュブロンドの体毛をしていたからだ。

「その猫、あの時の?」
「そうだよ」

あの時は消灯時間寸前で、廊下が松明の炎の光でオレンジ色だった。
だから、猫の体毛がよく見えなかった。
白だと思っていたけど、実際は違った。
ルーモスの光で鮮明に見える、アッシュブロンドの体毛。
ふわふわで柔らかそうで、尻尾もふさふさで長い。
その瞳は宝石のような青色で、レイブンクローを彷彿とさせる。
まるで、あの子みたいだ。

「ジョージ!」
「あ、フレッドの方も来たンだね」

遅れて到着したフレッドが、ぜーぜーと言った。
フレッドもルーモスの灯を手に持っている。
一方の俺は呼吸が整ってきたところだ。

「走るの早過ぎだろジョージ……あれ?
ルーナと猫じゃないか」

フレッドは呼吸を整えながら、猫に近寄った。
猫が一歩後退し、フレッドを警戒の目で見た。
猫を触りたがるフレッドに、ルーナが忠告した。

「駄目だよ、この子は触られるのが嫌いだもン」
「だってふわふわそうだし…ちょっとだけ、な?」

フレッドが猫に強い興味を持つ意味は分かっている。
この猫の体毛はシルバーに近いアッシュブロンドで、あの子の髪色と酷似しているんだ。
猫はルーナの背後に隠れたけど、フレッドは更に回り込んだ。

「フレッド、よせよ」

俺の制止に耳を傾けようとしないフレッドは、悪戯で培われた好奇心をフル稼働させている。
このままじゃ、折角逢えた猫に逃げられてしまいそうだ。
それだけは、嫌だ。
俺は猫とフレッドの間に身体を滑り込ませると、フレッドの前に立ち塞がった。

「やめろって」
「何だよ相棒。
その子はアフロディーテじゃないぜ?」

ニヤニヤする相棒を無視し、後ろを振り返ってみた。
俺の背後に、猫は上品に座っていた。
俺は慎重に腰の位置を下げ、ゆっくりとしゃがみ込んだ。
猫が眩しくないようにルーモスの灯りを消し、杖をローブに片付けた。
腰を上げようとした猫は警戒したけど、逃げはしなかった。
アッシュブロンドでふわふわの体毛、レイブンクロー色の瞳。
やっぱりあの子にそっくりで、好奇心に打ち勝てそうにない。
俺は右手を差し伸ばし、猫に掌を見せた。
何も持っていないし、怖い事はしないというのを分かって欲しかった。
猫は俺の指先をくんくんと嗅いだけど、引っ掻くような様子はない。
そーっと手を移動させ、猫の小さな頭に指先で触れた。
あ、大丈夫そうだ。
壊れものを扱うかのように、慎重にゆっくりと頭を撫でた。

「凄いぞ、ジョージ!」
「わあ…凄いね」

フレッドとルーナの感嘆の声を聞きながら、俺は猫と視線を合わせた。
レイブンクロー色の瞳が、俺だけを映している。
俺はジリジリと猫の方に寄ると、今度はその背中を優しく撫でた。
ふわふわで最高の手触りだ。
皆が触りたくなるのも分かる。
猫は俺から視線を外さないまま、大人しく撫でられている。
不意にあの子の台詞が頭を過った。

―――次に逢ったら抱っこしたいな。
―――無理だよ、あの子抱っこ嫌いだもン。

もしかしたら、いけるんじゃないか。
フレッドとルーナに聞こえないように、囁くような声で言った。

「アフロディーテ」

猫は瞬きもせず、無反応だ。

「おいで」

俺はそーっと猫の脇に両手を入れ、抱き上げた。
予想よりも軽い猫を引き寄せ、腕の中にしまい込んだ。
俺は感動の吐息をついた。

「やった…」
「凄い、上手なンだね。
あたしでもなかなか抱っこ出来なかったのに」

猫は少しだけ身体を固くしていて、完全に気を許してくれた訳じゃなさそうだ。
それでも、抱っこ出来たのは嬉しかった。
俺はゆっくりと立ち上がり、猫の頭をよしよしと撫でた。

「もしかして、あの子の…アフロディーテの猫?」
「そっくりだからあたしもそう思ったんだけど、違うンだって」

そんな偶然、あるのか?
俺はフレッドと視線を合わせた。



2019.6.7




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