出勤-1

季節は秋、天気は快晴。
オーキド研究所の庭は今日も長閑で騒々しい。

“俺、メガ進化!”

オーダイルが左腕をビシッと上げ、神秘の雫の埋め込まれたバングルを掲げた。
修行前にメガ進化ごっこを楽しむオーダイルに、対戦相手のマニューラがへらへらと笑った。

“そうこうしてる間に、冷凍パンチが行くよー!”

“うわっ。”

二匹が真剣に修行を始めたのを見ながら、クロバットとラティオスはおやつのポフレをもぐもぐと頬張った。
竹編みのバスケットの中には沢山のポフレが入っていたが、ポケモンたちが半分以上たいらげた。
ゲンガーはバトルレコーダーを操作しながら、二匹のバトルを録画している。
オーダイルのメガ進化ごっこもばっちり撮った。
デボンコーポレーションで無線機を扱って以来、ゲンガーは機械を触るのがとても好きだ。
一方、バクフーンは鋼タイプ用クロスでジバコイルを磨いていた。

“ぴっかぴか!”

“ありがとう!”

オーダイルとマニューラの前に修行していたジバコイルは、エーフィのシャドーボールを顔面からもろに食らった。
それによって燻んでしまった鋼の身体を磨いて貰ったのだ。
バクフーンはジバコイルの身体に自分が映っているのを見て満足した。

『シルバーが帰ってくるから、綺麗にしないとね。』

小夜はスイクンの体毛をポケモン用ブラシで整えていた。
長い紫の鬣は、小夜の髪色に酷似している。
カリカリと忙しない音がするのは、ケンジのスケッチの音だ。
縁側に腰を下ろしているケンジは、小夜にブラッシングをして貰っているスイクンを猛烈な勢いで描いている。
観察されるのが苦手なスイクンをスケッチ出来る機会は、そうそうないのだ。

シルバーがデボンコーポレーションに出掛けるようになってから、三ヶ月が過ぎた。
週に一度、本社の客室で二泊三日している。
朝に出掛けて、二日後の夜に帰宅するという三日間の勤務だ。
約束通り、小夜はデボンコーポレーションに一度も行っていない。
シルバーのポケモンたちもしっかりと留守番をしている。
泊まり込みで働くシルバーの邪魔をしないように、この研究所で大人しくしているのだ。
研究所に戻ってきても、多忙にしているシルバーだが、小夜と出掛ける時間も作っている。
コガネシティやヤマブキシティといった大都市で買い物をしたり、タンバシティの海で泳いだりするのは気分転換になる。

“うにゃああ!!”

“うわっ、ごめん!”

マニューラの叫び声に、小夜は驚いた。
オーダイルの馬鹿力が、躓いたマニューラの腰に直撃したのだ。
格闘タイプの技馬鹿力≠ヘ、悪と氷タイプであるマニューラには効果が抜群だ。
ばたっと倒れたマニューラに、オーダイルが駆け寄った。

“ごめんよマニューラ…!”

遅れてエーフィが駆け寄った。
自分は修行の監視役だというのに、マニューラがあのタイミングで躓くとは思わなかった。
普段ならポケモンたちが無理をする前に止めに入るのだが、今回は不意を打たれた。
エーフィはしょぼくれた。

“ごめんね、私が鈍くて…。”

“エーフィは悪くないよ。

俺が技を止められなかったのが悪いんだ…。”

そわそわするオーダイルの横で、エーフィがバクフーンを呼んだ。
走ってきたバクフーンの手に、お菓子の袋が握られている。
バクフーンは不敵に笑った。

“必殺回復!”

バクフーンがお菓子の袋を開けると、ぺりっという独特の音がした。
途端にマニューラが身体を起こし、目を輝かせた。

“この音はコーンポタージュスナックの袋の音…!”

マニューラはバクフーンから袋を受け取り、いい匂いのするスナック菓子を頬張り始めた。
大食いのマニューラにとって、これが回復薬だ。
癒しの波導が必要なさそうだと思った小夜は、左手首のポケナビを確認した。
もうすぐ午後五時になる。
談話室からオーキド博士が顔を出した。

「おやおや、今日も気合いが入っておるのう。」

『あ、博士。

もうそんな時間ですか。』

オーキド博士が出てくるという事は、そろそろ時間だ。
小夜はスイクンと共に立ち上がり、ポケモンたちに声を掛けた。

『シルバーが帰ってくるよー!』

シルバーのポケモンたちの表情がぱあっと明るくなった。
オーキド博士とケンジが庭に出てきた時、気配を感じた小夜がある方向に駆け出した。
すると、音もなくシルバーとネンドールが姿を現した。
小夜はシルバーに飛び掛かるように抱き着いた。

「おっと…相変わらずの出迎えだな。」

『おかえりなさい。』

「ただいま。」

こうして皆に出迎えられて、シルバーはテレポートで帰ってくるのだ。



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