胡散臭い電子メール -2

ドクターユングがポケモン学会から追放される前に発表したという論文を、オーキド博士から手渡された。
オーキド博士がポケモン学会の公式HPにログインし、其処に多数保存されていた論文の中から三つを厳選して印刷したものだ。
就寝前、シルバーはソファーに腰を下ろしながら、クリップで留められている論文を読んでいた。

『シルバー、読み終わりそう?』

「もう少しだ。」

小夜はベッドで寝転がりながら尋ねた。
今夜は小夜の部屋で一緒に寝る約束をしている。
因みに、昨日はシルバーの部屋で寝た。
シルバーがデボンコーポレーションへ向かうようになって以来、二人は一緒に寝ている。

「よし…終わった。」

『お疲れ様。』

テーブルの上に論文を置いたシルバーは、足を組み直した。
前髪を掻き揚げるその表情は険しかった。

「チッ…後味が悪いな…。」

『うん、そうよね。』

既に小夜はユングの論文全てをインターネットで読破している。
最初は真っ当な研究内容だったのだが、徐々に過激になっていった。

「追放されるのも頷ける。」

電子メールの内容にバトルシステムと書かれていたが、ユングは以前からその研究を続けていた。
バトルシステムに必要なポケモンの戦闘能力を、ポケモンからどのように引き出してデータ化するのか。
システム上でデータ化されたポケモンの扱いを如何するのか。
その方法が残虐且つ非人道的であり、大きな問題点だった。
何時しか、強いポケモンをデータ化して生み出したいという野望が目に見えるようになった。
それらを倫理に反していると判断されたのだ。
ポケモン学会に席を置くのであれば、それ相応の研究をする必要がある。

「心を持たないからといって…虐げていい訳じゃないからな。」

シルバーはオーダイルを一瞥した後、視線を下に落とした。
面倒見のいいオーダイルは、眠っているマニューラにブランケットを優しく掛けている。
一番の相棒であるオーダイルを、シルバーは虐げていた過去がある。
当時のオーダイルはまだ進化前のワニノコだった。

『シルバー。』

シルバーの心の変化を感じ取った小夜は、ベッドから降りた。
ゆっくりと視線を上げたシルバーの隣に腰を下ろし、その腕に手を添えた。

『シルバーはもうあの頃のシルバーじゃないよ。』

暴力的だった過去の自分を思い出す度に、シルバーの胸は擦り減るような苦しさを覚える。
小夜はそんなシルバーの心を気配から強く感じ取っていた。

『過去を忘れてとは言わない。

でも、一人で苦しまないで。』

こんなにも傍にいるのだから。
二人はじっと見つめ合った。
シルバーの心の苦しさが少しでも和らぐようにと、小夜は微笑んだ。

『シルバーは頑張ってるよ。

私が保証するんだから。』

シルバーは小さく笑った。
過去に虐げたポケモンたちに対する償いをするべく、シルバーはデボンコーポレーションへ足を運んでいる。

「…サンキュ、小夜。」

シルバーは小夜の頬に一瞬だけ唇を落とした。
二人の様子を見守っていたポケモンたちは、シルバーの行動に驚いた。
常々積極的な小夜に触発されたのだろうか。
シルバーに変わって小夜が頬を染めた。

「何だよ、その反応。

何時も積極的な癖に。」

『ちょっとびっくりしただけ…。』

ふっと口角を上げたシルバーは優越感に浸りながら、小夜の手を取って立ち上がった。
既に就寝の時間を過ぎている。
何時までも電気を消さずにいると、ポケモンたちが寝付けなくなる。

「寝るぜ。」

小夜は照れ臭そうに微笑みながら、シルバーに手を引かれた。
二人でベッドに横になると、バクフーンが皆に声を掛けた。

“電気消すよー。”

ポケモンたちの眠そうな返事の後、電気のコードがバクフーンに引っ張られた。
照明が橙色で温かみのある就寝灯に変わった。
シルバーは掛け布団の下で小夜の肩を引き寄せ、小夜がシルバーの肩に頭を乗せた。

「眠れそうか?」

『うん、シルバーがいるから。』

予知夢を見るのではないかという恐怖が胸を掠める事はあるが、小夜は基本的に寝付くのが早い。
シルバーに寄り添っていると、自然と心が落ち着く。
シルバーが不在の際は、バクフーンやエーフィが一緒にベッドで寝てくれる。
時には敷き布団を引っ張り出し、ボーマンダやスイクンとくっ付いて寝る夜もある。

「もうそろそろデボンに行く回数も減らしたいところだな…。」

『最初は二ヶ月って言ってたもんね。』

プロジェクト発足当時は二ヶ月の間に週三日という契約だったのだが、予定よりも長引いている。
約束の三日間以外にもデボンへ呼び出されたりする日もある。
お陰で二人は旅に出られないのだ。
現時点で三ヶ月が経過しているが、まだ時間がかかりそうだ。

「ごめんな、こんなに長引くとは思わなかった。」

『いいの、頑張ってるシルバーが凄く好きだから。』

「なっ…。」

不意打ちで好きだと言うだけで、シルバーは相変わらず赤面する。
小夜は楽しくなってきた。

『照れてるの?』

「煩い…寝るぞ。」

『はーい、おやすみ。』

「おやすみ。」

一度だけ口付けを交わしてから、二人は目を閉じた。
小夜は無意識にユングの顔を思い出した。
胡散臭いメールの内容と、一見穏やかに見える顔付きが不吉だ。
オーキド博士の出張は無事に終わるだろうか。
招待されているサトシとカスミの事も心配になった。




2018.7.13




page 2/2

[ backtop ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -