変人再び

青学の屋上に繋がる扉は施錠されていて、開かないようになっている。
その扉の前は人が通らないし、呼び出しに使われる場所として有名だ。
1年生の頃、此処で国光とキスした事がある。

「不二愛先輩、ずっと好きでした…!

二股でもいいので…僕と付き合って下さい!」

一体如何いう精神してるんだか。
名前も分からない男の子が放課後に教室まで来て、呼び出されたかと思えば告白だ。
先輩と呼ばれたから、年下のようだ。
気弱そうな男の子は両目を固く瞑り、あたしに片手を差し出している。
あたしは呆れるのを顔に出さないように気を付けながら、頭を下げた。

『ごめんなさい。

ご存知の通り、交際している人がいます。』

手塚国光と不二愛が交際している、という噂は有名だ。
それでもこうして告白してくる男の子がちらほらいる。

「今日だけでいいんです!」

『…はい?』

「今日だけ付き合って下さい!」

助けて、国光。
久し振りに変人に遭遇したよ。
さっさと退散して、人がいる場所に行こう。
こんな処まで来るんじゃなかった。
気弱そうな外見や、己の撃退能力の過信で油断してしまった。

『お断りします。

ごめんなさい、失礼します。』

「待って下さい!」

手を握られそうになり、慌てて回避した。
階段を数段降りると、男の子も同じだけ降りた。
これ以上近寄るなら、君の大切な二つのテニスボールを蹴り上げて再起不能にしてしまうかもしれない。
あたしはくるっと踵を返し、階段を猛スピードで降りた。

「待って下さい不二先輩!」

『嫌過ぎる!』

数段降りた処で、なんと朋ちゃんと越前君の二人に遭遇した。
二人も屋上の扉前に行こうとしていたのかな。
昨日朋ちゃんは越前君に告白したから、その返事を聞くのかもしれない。
朋ちゃんは大慌てで現れたあたしに目を丸くした。

「ちょっと愛、何してるの!?」

『助けて…!』

朋ちゃんの背後に素早く隠れた。
越前君は何事かと眉を潜めていた。
にじり寄ってきた男の子は、獲物を狙うハンターのような目であたしを見ている。

「通して下さい。

不二先輩に話があるんです。」

苦笑してしまうくらい怖い。
国光に此処へテレポートして欲しいくらいだ。
越前君が呆れた表情であたしに訊ねた。

「アンタ何してんの。」

『断ってるのに、この人が追ってくるの…。』

あたしの台詞を聞いた朋ちゃんは、突然男の子の肩に両手を置いた。
きょとんとする男の子に向かって、何故か何度も頷いた。

「分かるよ…その気持ち。

あたしもリョーマ様の事、ずっと好きだもん。」

共感して如何するんだ。
あたしは朋ちゃんに突っ込もうとしたけど、朋ちゃんは気にせず大声で続けた。

「でもね、断られたら潔く身を引きなさいよお!

あたしなんか何回も振られて、何回も引いてるんだからあ!」

下の階にいる生徒にも聞こえそうな勢いで、朋ちゃんは号泣した。
男の子はギクッとしてから、あたしを熱い眼差しで見た。

「ずっと好きですから!」

男の子は朋ちゃんが号泣している隣を颯爽と駆け抜け、逃げるように去っていった。





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