大切な日課

就寝前の日課である日記を書き終えた後は、もう一つの日課である電話が待っている。
ベッドに腰を下ろし、スマートフォンを操作した。
毎晩、この時間は俺の心休まるひと時だ。

《もしもし。》

「愛、起きていたか。」

愛は時々寝落ちている事があり、電話で話せない日もある。
海外遠征時は時間を合わせるのが難しいが、なるべく時間を取るようにしている。
この電話が日課となってから久しい。

《国光サン…。》

「何かあったんだな。」

愛が俺を国光サンなどと呼ぶ時は、妙な事柄に遭遇している時が多い。
愛は疲労感のある声色で言った。

《このハゲーって叫んじゃった…。》

「誰に?」

《越前君に。》

愛が叫んだフレーズに聞き覚えがある気がしたが、まあ如何でもいい。
やはり、愛の疲労の原因は越前か。
その名は俺たちが忘れた頃に会話に現れ、愛を悩ませている。
先日、越前は愛の友人である小坂田さんから三度目の告白があった。
その話は既に愛から聞いている。
越前が愛に対して尊敬と信頼を寄せているという話も、勿論聞いている。
愛が1年生だった当時は何かと問題があった越前との関係も、良い方向に向かった。
俺が思うに、越前は愛の男友達の中で最も愛と親しい。

《国光は同じ女の子から三回告白された事ある?》

「…ある。」

《ですよね分かってましたよ別に妬いてないから。》

「落ち着け。」

早口になった愛は、言葉にならない声で唸った。
嫉妬する必要などないというのに。

「俺はお前だけだと何度も言っているだろう。」

《…うん、あたしも国光だけ。》

出逢った時から、お前しか見ていない。
これから先もお前だけでいい。
愛が不安になる度に、お前だけだと飽きずに伝え続けるつもりだ。
愛は我に返った。

《はっ…嬉し過ぎて本題を忘れるところだった。》

俺も忘れそうになっていた。
愛と俺だけの世界に浸っていた。
元の話題に戻るべく、気を取り直した。

《えっと、何だっけ……あ、思い出した。

三回も告白されたら、しつこいと思った?》

「しつこいというより、戸惑った。

今後もこれが続くのかと思うと、正直気疲れした。」

俺の何が相手を惹き付けたのか、未だによく分からない。
愛と交際を始めてから、告白される数は全体的に激減した。
ありがたいし、平和だと感じる。

《越前君は朋ちゃんに、今後も好きになる事はないって話したらしいの。

それって越前君も気疲れしてたからなのかな。》

「俺はそう思うが、越前の台詞は酷だな。」

越前は相手の気持ちを尊重していない。
友人が傷付くのを、愛は見過ごせない性格だ。
愛は真剣に質問を続けた。

《三回告白されて、心が揺れたりしなかった?》

「いいや…しなかった。

当時の俺は人を好きになった事すらなかったからな。」

《そっか…。》

愛は力なく話し始めた。
越前に今と同じ質問をすると、生意気な口調で別に≠ニ返ってきた。
もっと真剣に小坂田さんの気持ちに向き合って欲しいと話せばやだ≠ニ返ってきた。
愛は越前に適当にあしらわれたのだと感じたらしい。

《あたしの事も気疲れしたのかな。》

「越前は自暴自棄になっただけだろう。」

《そうかな…。

あ、でも確かに不機嫌だったかも。》

―――俺はアンタを諦めたのに、何で小坂田は諦めない訳?

《朋ちゃんはそれだけ越前君が好きなんだよって話した後から、妙に不機嫌だった。》

「…なるほど。」

《ん?》

「越前はお前に対する想いを軽視されたと思ったんだろう。」

小坂田さんの恋心に真剣に向き合って欲しい、と愛は越前に話した。
越前は嘗て、そんな愛に想いを寄せていた。
あのバレンタインデーに好きになりそう≠セと愛に告白したのは、越前にとって本気の想いがあったからだ。

《軽視なんて…考えた事もないよ。》

「気を落とすな。

友人同士に仲良くして欲しいと思うのは当然だ。」

たとえ二人の友人が交際しようとしなかろうと、愛は二人に仲違いをして欲しくない。
小坂田さんが越前に告白する度に、愛が小坂田さんから泣きつかれていては、愛も困るだろう。

「何かあったら抱え込まずに、すぐに俺に話すといい。」

《ありがとう、国光。》

「構わない。

俺にはお前を支える役目があるからな。」

逢えない今は話を聞いてやるしか出来ない。
早く逢って頭を撫でてやりたい。

《話題変えよっか。》

「クリスマスの話をしようか。」

《するする!》

愛の声がたちまち明るくなった。
数日後に控えているクリスマスは、お互いに予定を空ける事が出来た。
何処へ出掛けようか。
クリスマスプレゼントは喜んでくれるだろうか。
早く愛に逢いたい。


2018.5.16




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