解毒

花怜が蒼の巫女として人間から慕われる理由の一つは、治癒能力にあった。
今日、その能力を改めて目の当たりにした。
山道で妖怪に襲われて怪我をしていた人間を発見した花怜が、その場で治療したからだ。
妖怪の毒で変色していた人間の腕を、花怜は蒼の光で完全に治療してみせたのだった。

無事に人里へ向かった人間を見送った後、私たちは再び歩き始めた。
私の隣で歩く花怜に、背後から邪見が言った。

「お前は解毒も出来るのか。」
『これでも浄化出来なかった毒はないんです。』
「殺生丸さまの毒はお強いぞ。」
『問題ありません。』

その挑発的な言葉に、私は目を細めた。
一方の花怜は柔らかく微笑んでいるだけだ。
私はふっと笑うと、花怜の手を掴んで引き寄せた。
驚いた表情をする花怜の耳元で、密やかに言った。

「治癒能力に自信があっても、私に愛されている自信はないのか。」
『……!』

頬を紅く染めた花怜の手を離さず、そのまま歩き続けた。
背後から視線を感じるが、気にしない。
花怜は少し躊躇いながら、私に寄り添った。

『少し…恥ずかしいですね。』

花怜は指を握る力を込めた。
夜は手を繋ぎながら眠るが、こうして移動しながら繋ぐのは珍しい。
花怜の恥じらう横顔も見飽きない。
ふと口角を上げ、山道を辿った。



2018.9.10




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