愛情 前編

花怜の感知を頼りに、私たちは歩き進めていた。
山を一つ越え、次の山の麓へと差し掛かった時。
私の隣を歩いていた花怜が立ち止まった。

『殺生丸さま。』
「近いのか。」
『すぐ其処に。』

草陰から小柄な化け犬の妖怪が姿を現した。
体毛は黒く汚れていて、その目は赤く血走っている。
此方を警戒しながら、攻撃体制を取っている。
邪見とりんが阿吽の背後に隠れた。

「なんと薄汚い犬じゃ。
殺生丸さまの足元にも及ばん!」
「しーっ、邪見さま静かに…!」

邪見の台詞に怒りを露わにした妖怪は、その妖気が徐々に禍々しくなり、体毛が伸びてゆく。
花怜は特に焦燥の様子もなく、相手を見据えていた。
しかし、妖怪が地を蹴った。
私は腰の闘鬼神に手を伸ばしたが、花怜がその手に触れて制した。
花怜が続けて目を細めた瞬間、妖怪が力無く地に落ちた。
私も経験した、花怜の金縛りだ。

『殺さないでください。
自我を失っているだけです。』

花怜は倒れ込んでいる妖怪に近寄ると、片膝をついた。

『やっぱり…四魂のかけら。』

妖怪の額に埋め込まれていたかけらを指先でそっと取り出した。
禍々しかった妖気が徐々に引き、体毛も短くなってゆく。
目の色が赤から緑に変化し、元の姿に戻ったようだ。
花怜の金縛りから解放された妖怪は、何事かと周囲を見渡した。
花怜が言った通り、自我を失っていたようだ。

『ほら、お行き。』

花怜は立ち上がり、妖怪に微笑んだ。
妖怪は花怜に律儀に頭を下げ、森の中へと駆け出した。
無駄な殺しを好まない花怜の性格は、一族の死によって培われたものだろう。
妖怪を見送った花怜は、掌に乗せたかけらを見つめた。

『かごめちゃんの処に行って来ます。』
「犬夜叉の元へ行くのか。」
『あの方々は四魂のかけらを集めています。
それに、私たちが持っていたら奈落に狙われます。』

確かに、奈落やその分身を呼び寄せてしまうだろう。
花怜は普段から邪見とりんを危険な目に遭わせるのを避けようと心掛けている。

「行くぞ。」

私は本来とは別の方向へ歩き始めた。
花怜は不思議そうに目を瞬かせていたが、私の隣に並んだ。

「犬夜叉の元へ行くのだろう。」
『一緒に来てくれるんですか?』
「近くまで行くだけだ。」
『逢ったら喧嘩しそうですしね。』

花怜が犬夜叉を庇ったあの時を思い出すと、虫唾が走る。
しかし花怜が殺すなと言うのなら、今は我慢してやろう。
邪見とりんが阿吽を連れ、私たちを追って来た。
私たちはほんの微かに感じる犬夜叉の匂いを追い始めた。



2018.7.14




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