みかん畑 前編
邪見とりんが干柿の奪い合いで騒々しいのを聞きながら、私は草原の片隅にある岩肌に腰を下ろしていた。
日陰になっているが、木漏れ日が時折私の足元を照らした。
花怜は私の傍であの二人を見守っていたが、独り言のように言った。
『殺生丸さま、少し出掛けます。』
私は目を細めた。
花怜が森の方向を見つめている。
「何処へ行くつもりだ?」
『此処へ来る途中に、みかんの木が見えたんです。』
確かに柑橘系の匂いがする。
しかし、花怜は道中でその話をりんに伝えなかった。
何故なら、妖怪の匂いも近いからだ。
「一人で行くのか。」
『大丈夫ですよ?
殺生丸さまはりんと邪見さまと一緒に花摘みでもしていてください。』
私が花摘みなどする筈がないと分かっていながら、花怜は冗談を言う。
花怜は私を癒す微笑みを浮かべた。
『行って来ます。』
「遅ければ迎えに行く。」
『すぐ戻ります。』
花怜のすぐ戻る≠ヘ当てにならない。
以前もそう言いながら、人里から一週間戻らなかった。
花怜は私の右手に軽く触れてから、森へと入って行った。
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