天下覇道の剣:胸騒ぎ

殺生丸さまが花怜を妻に迎える。
こんなにめでたい事があるだろうか。
考えるだけで、わしはまた涙ぐみそうになった。
花怜は容姿端麗で戦闘能力も申し分ないし、心優しく情に厚い妖怪だ。
その優しさや温かな心に、殺生丸さまも癒されている。
実際、殺生丸さまはわしに向けた事のないような穏やかなお顔を、花怜だけに向けるのだ。
高貴な殺生丸さまには、花怜のような妻が相応しい。

岩場の山道は、足場を埋め尽くす細かい岩がじゃりじゃりしていて見晴らしが良く、夕焼け色の森が大きく開けて見える。
夫婦になる二人は先頭を並んで歩いている。
不意に殺生丸が足を止めたかと思うと、何処からかカタカタと音がした。
殺生丸さまは腰に携えている刀を見た。

「天生牙…。」
『殺生丸さま、あれは…。』

花怜の視線の先に、筋のような紅い光が空に向かって伸びていた。
りんが殺生丸さまと花怜に「どうしたの?」と訊ねた。
殺生丸さまは紅い光を見ながら、不敵に笑った。
その横顔を見たわしはギクッとした。
殺生丸さまが笑っておられる…!
これはきっと良くない事が起こるぞ…。
すると、花怜が殺生丸さまの装束の裾を握った。

『殺生丸…さま…。』
「花怜…?」
『また胸騒ぎが…。』

花怜の様子がおかしい。
何かに怯えているような目をしている。
殺生丸さまは目を細めると、右腕で花怜の肩を抱き寄せた。
花怜は殺生丸さまに寄り添いながら、視線を下に落とした。

「私から離れるな。」
『…はい。』

花怜が殺生丸さまの傍を離れていると、ろくな事がない。
特に白霊山の件では、花怜の存在の大きさを身をもって思い知らされた。
花怜はわしとりんの前で殺生丸さまに寄り添うのを、何時も恥じらっている。
しかし、今は恥じらう余裕もないらしい。
これはまさしく、良くない事が起こる前兆だ。
あの紅い光の筋も気になる。
わしは自然と口を開いていた。

「大丈夫じゃ、花怜。
殺生丸さまがおられるのだからな。」

花怜は黙ったまま頷いた。
りんが心配そうに眉を潜めているし、阿吽も二つの顔を見合わせた。
わしも不安になったが、きっと殺生丸さまと花怜は離れないだろう。
夫婦となる二人が揃っていれば、何にだって立ち向かえるのだ。



2019.4.16




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