末路-2

今夜の就寝場所は木の上だった。
焚き火の傍で眠っている邪見さまたちを見下ろしながら、月の見える場所で私たちは寄り添い合っていた。
私が口元に手を当てて欠伸を零すと、殺生丸さまに見つめられた。

『…見られましたか。』

気が緩んでいた。
ちょっとだけ恥ずかしい。
殺生丸さまの毛皮を手繰り寄せ、口元を埋めた。

「思い出したくないだろうが、聞かせてはくれぬか。」
『何をですか?』
「今朝の話だ。」
『一族の話ですか。』

殺生丸さまになら、話しても構わないと思った。
私は躊躇なく、ゆっくりと話し始めた。

私の一族は妖怪だけれど、容姿は人間に近い。
その妖気は他の妖気を寄せ付けず、滅してしまうという特性を持つ一族だった。
隣国の人間とも交流があり、平和な国として知られていた。

『百年程前、愚かな権力争いが起きました。』

あの日、屋敷を轟々と燃やす炎の中、子供だった私は両親を探し回っていた。
やっと見つけ出した母上は血塗れで、既に父上は事切れていた。
母上はもがき苦しみながら、最期は自らの手で心臓を貫いた。
一族は殆どが死に、生き残った者たちは廃墟となった国を去った。
そんな時、負傷していた私たちを助けてくれたのが、小さな隣国の人間たちだった。

『だから、人間には借りがあるんです。』

―――殺して、花怜…殺して…!

母上の最期の言葉が、脳裏に染み付いて消えない。
全く、酷い母親だ。
実子に息の根を止めさせようとしながら、最期は目の前で自害するなんて。

『父上を殺してしまったのを嘆くくらいなら…初めから殺し合わなければいいのに。』
「花怜、落ち着け。」

体内で封じていた霊気が滲み出すのを感じる。
自分を鎮めるように胸に片手を当て、項垂れるように俯いた。
殺生丸さまに肩を抱き寄せられながら、自嘲気味に微笑んだ。

『心が乱れると、妖気と霊気が喧嘩する時があるんです。』
「すまぬ…無理に話させたようだな。」
『違います、私の心の弱さです。』

殺生丸さまが俯く私の頬に手を添えた。
心がすうっと落ち着いてゆく。

『もし仮に、妖気と霊気の双方が体内で殺し合ったら如何なるのでしょうか。』
「…!」
『私も一族のような末路を辿るのでしょうか。』

今までに何度も何度も疑問に思って来た。
妖気と霊気は相反する存在で、お互いに反発する。
私は身を乗り出し、殺生丸さまに抱き着いた。

『冗談です。』
「…悪い冗談だな。」
『無事に百年以上生きていますから。』

妖怪である私が霊気を使い熟す為に、どれ程の時間を費やした事か。
血の滲むような努力をしたからこそ、妖気と霊気を転換させたり、片方を封じ込めたり出来るようになった。
心が乱れないように、精神修行も続けたつもりだ。
心穏やかでいる為にも、殺生丸さまの傍にいたい。



2018.6.7




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