自信 前編-2
かごめちゃん一行と別れ、殺生丸さまの元へ戻るべく山道を辿った。
独りだと心細く感じるようになったのは、殺生丸さまに出逢ってからだ。
夜道を歩きながら、瞬く星を見上げた。
―――もし殺生丸が二股してたら、如何思う?
かごめちゃんの問いかけを思い出した。
もし仮に、殺生丸さまに二股をかけられていたら――
『…う。』
俯いて口元に手を当てた。
想像するだけで気分が悪くなる。
お屋敷で食べたお米を消化すべく、胃の辺りをすりすりと摩った。
食べ過ぎただろうか。
不意に慣れ親しんだ妖気を感じ、立ち止まった。
…殺生丸さまだ――
近付いて来る。
宙を移動しているのだろう。
どのような顔をして逢えばいいだろうか。
上手く笑えずに顔が引き攣ってしまう気がする。
逢いたいけれど、もう少し待って欲しい。
寧ろ逆に、殺生丸さまに逢えば落ち着くかもしれない。
嗚呼、私は何をこんなにそわそわとしているんだろう。
情けない想いを振り払うように、一目散に駆け出した。
充分に助走をつけ、大きく跳び上がった。
『殺生丸さま!』
「!」
宙を移動していた殺生丸さまに、両腕を広げて勢いよく抱き着いた。
殺生丸さまは力強く受け止めてくれた。
『迎えに来てくださったんですね。』
宙に浮かびながら抱き合うのはなんだか新鮮だった。
殺生丸さまの腕が身体を支えてくれるから、少しも怖くはない。
逞しい肩に頬を寄せながら、やっぱり殺生丸さまの傍が一番だと思う。
「お前が飛びかかってくるのは珍しいな。」
『飛びかかるだなんて失礼です。』
「何を吹き込まれた?」
私は目を見開き、黙った。
胃の辺りを摩りたくなった。
『相談を受けただけです。』
「ほう、それで?」
『そ…それでとは?』
「お前が動揺する訳を訊いている。」
殺生丸さまに隠し事は出来そうにない。
けれど、どのように話したらいいのだろうか。
かごめちゃんの三角関係は個人的な問題だ。
それを殺生丸さまに話すのは、相談を持ちかけてくれたかごめちゃんに失礼だ。
『私…頑張りますから、その…。』
殺生丸さまの金色の眼に見つめられていると、胸の高鳴りが止まらない。
『私だけを見ていてください。』
殺生丸さまが目を細め、私を抱き締める腕の力を強めた。
「……まだ私を見くびっているのか。」
『違います、信じています。』
はっきりと否定した。
口数が少ない殺生丸さまは、鈍い私の為に想いを言葉にしてくれる。
その想いを見くびっている訳ではないし、殺生丸さまを信じている。
けれど、自分の事は信じられない。
如何して私はこうなんだろうか。
泣いてしまいたくなった。
「来い。」
『?』
殺生丸さまが急降下し、坂道になっている野原に立った。
片腕を引かれたかと思うと、その場に押し倒された。
「印を結べ。」
『…!』
「此処で抱く。」
噛み付くように口付けられ、私は翻弄されながら印を結んだ。
殺生丸さまには幾度か抱かれている。
その度に印を結んで結界を張る。
「お前はいい女だ。
自分を卑下するなど理解出来ん。」
『殺生丸さま…。』
「愛されている自信を持て。」
私が涙目になると、殺生丸さまはふっと笑った。
「…この私に此処まで言わせるとはな。」
『ごめんなさい。』
「反省しろ。」
私は小さく頷いた。
その晩、殺生丸さまの体温を身体いっぱいに感じた。
朝日が顔を出すまで、情熱的に肌を重ね合った。
2018.8.24
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