繋がりの洞窟

ひっそりと静かな深夜。
やっとポケモンセンターを出発した小夜とシルバーは、木々に囲まれた光のない道を二人で進んでいた。
小夜がオーキド研究所から持参したランプの灯が、周辺を仄かに照らしている。
野生のポケモンたちを起こさないように、最小限の明るさにしてあった。
小夜はシルバーを一瞥した。
隣でつんつんしながら歩く少年は、小夜が予想した以上に鋭い。
目付きは愚か、分析能力まで鋭いとは。

「おい。」

『ん?』

小夜が黙っているのを見兼ねて、シルバーが口を開いた。

「今まで何処へ行っていた。」

『気になる?』

「別に。」

ふふっと笑う小夜に対して、シルバーはやはり苛立った。
目を疑いたくなる程に美人なこの少女はマイペースだ。
そのペースに流されるような気がして、シルバーはもう詮索しない事にした。
すると小夜がランプの灯を突然吹き消し、真っ暗で何も見えなくなってしまった。

「てめぇこんな暗い中で消すんじゃ――もが!」

『黙って。』

小夜に口を塞がれ、シルバーは可笑しな声を出してしまった。
雲に見え隠れする月明かりの中、僅かにしか見えない小夜の顔は、とても真剣な表情をしている。
シルバーは小夜に罵声を浴びせても良かったが、此処は大人しく黙っている事にした。

一方の小夜は何かの気配を感じ取っていた。
人間ではなく、ポケモンでもない。
まだ遠くにある気配だが、確実に此方へ近付いて来る。
シルバーは至近距離で二つの青い光を見た。
遠方から爆発音が響き、思わず肩がビクリと跳ねた。
それは立て続けに鳴り、何度爆発したのか数えきれなかった。

何だ、何が起こっているんだ?

シルバーは口を塞がれたままで嫌な汗を掻いていると、爆発音が鳴り止んだ。
それと同時に青い光が消え、塞がれていた口も解放された。
ライターの着火音がしたかと思うと、ランプのガラス管の中にある蝋燭に明りが再度灯された。

「…もう話していいのか…?」

『うん。』

小夜の表情は依然として真剣なままだ。
シルバーは小声で話した。

「今のは何だ?」

『敵が放った飛行型監視カメラ。

全部潰したから、大丈夫。』

「潰した?」

気配の正体は監視カメラだった。
ロケット団が放った隠しカメラだ。
小夜は自分の姿が撮られる前に、念力で全て破壊してしまった。

「何故遠距離なのに監視カメラだと分かった?」

『勘。』

「ふざけるな、真剣に答えろ。」

『機械には敏感なの。

でも勘なのは嘘じゃない。』

小夜は嘘をついてはいなかった。
実際に小型機器には敏感で、ニューアイランドの研究所ではバショウが仕掛けた機械を何度も破壊してきた。

「カメラを放ったのは誰だ。」

『貴方は鋭いから、もう分かってるんじゃないの?』

「ロケット団か。」

『御名答。』

ロケット団が動き出している。
バショウはミュウツーが手懐けられるまで小夜が安全であると言っていた筈だ。小夜はロケット団が突然動き出すと予想出来ていたが、幾ら何でも見つかるにしては早過ぎる。
何故、見つかったのだろうか?
また襲来してくる可能性は否めないが、現在周辺に怪しい気配は感じない。

『この先に洞窟があるから、其処まで一気に飛びましょう。

ボーマンダ!』

小夜がモンスターボールからボーマンダを放つと、ボーマンダは自分の出番に意気込んで踏ん反り返りながら現れた。
俺の出番だとボーマンダが鳴くと、小夜は頷いて大きな背に飛び乗った。

『シルバー、乗って。

空中は少し怖いかもしれないけど。』

小夜はシルバーに手を差し出した。
ボーマンダも翼を下げ、背に乗るように催促してくる。

「チッ、分かったよ。」

シルバーは渋々小夜の手を取ると、小夜に思い切り引っ張られた。
シルバーの体勢が安定しないままボーマンダが飛び上がった為、シルバーは不意を突かれてよろめいた。
その速度は目まぐるしく速く、風圧で吹き飛ばされそうになる。

「っ!」

『大丈夫?』

シルバーよりも明らかに体重が軽いにも関わらず、小夜は風圧が平気なようだ。
シルバーの腕を掴むと、自分に引き寄せた。
小夜と肩が密着するシルバーは、顔が赤くなるのを感じた。

この女はわざとやっているのか?
それとも鈍感なだけか?

その間にもボーマンダは高度を上げ、一気に雲の上まで出た。
この風圧の中でも、丈夫なガラス菅に守られているランプの灯は妖しく揺れながら燃えていた。




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