説得

『やっぱり貴方だったのね。』

其処にいたのは六年前に共に闘ったポケモン。
自分の命を救ってくれたポケモン。
紫の体毛が美しく靡き、何処から見ても神々しいその姿を六年間望み続けてきた。
小夜は駆け出し、そのポケモンの顔を胸に抱き締めた。

『逢いたかった。

……スイクン。』

突如姿を現したスイクンは小夜の身体に顔を擦り付けた。
小夜の背後からボーマンダが二匹を背に乗せて飛行しながら現れ、エーフィとボーマンダはスイクンの姿を見て目を丸くした。
この二匹がスイクンと対面するのは六年振りだ。
ボーマンダは赤い羽を二度大きく羽ばたかせてから、小夜とスイクンの前に着地した。

“スイクンの気配ならそう言ってくれたらいいのに。”

そう文句を言うボーマンダに、その背に乗ったままのエーフィが突っ込んだ。

“ポケモンセンターの前でスイクンの名前を軽々しく言えないでしょ。”

たとえ人間に自分たちの言葉が通じないと分かっていても警戒するべきだ、とエーフィは主張する。
一方のヒノアラシは突如目の前に現れた伝説のポケモンに開いた口が塞がらないでいた。
スイクンは静かに口を開いた。

“小夜、急速に身体が成長したようだな。”

『二年くらいで一気に成長したの。

見て、彼はあのタツベイよ!』

ボーマンダは自らの事を言われているのだと分かるとしゃきっと踏ん反り返り、その勢いでエーフィとヒノアラシが背中から落下した。
エーフィは驚きながらも何とか着地したが、ヒノアラシはごろりとひっくり返ってしまった。
その光景にスイクンは思わず笑みを溢した。

『エーフィは変わらずそのままよ。

あのヒノアラシは昨日から仲間になったの。』

“強くなったとか言って欲しいよ。”

エーフィは細々と呟いた。
スイクンに見つめられたヒノアラシは緊張で身体が強張った。

『大丈夫よ、ヒノアラシ。

スイクンは説明した通り、一緒に闘ってくれる仲間だから。』

小夜はスイクンの身体を撫でる。
スイクンは頷いてから小夜に視線を送った。

“異常な気配がすると思って出向けば、其処にお前がいた。

何故マサラタウンの研究所から出た?”

『ミュウツーが完成したの。』

“!”

スイクンは一度目を見開き、すぐに細めた。
小夜は辺りを警戒しながら、続けて小声で言った。

『バショウが教えてくれた。

ミュウツーは今ロケット団の元にいるらしい。

もしミュウツーがロケット団の手に完全に落ちたら、私は本格的に捕獲対象になる。

ロケット団の計画では、私の捕獲にはミュウツーが必須らしいの。』

“でもミュウツーは絶対にロケット団から逃げ出すと思う。”

エーフィがそう口を挟んだ。

『私はミュウツーが逃走したのを見計らって、彼に接触する。』

その台詞を耳にしたボーマンダの表情が曇った。

“それは許さないとエーフィも俺も言った筈だ!”

ボーマンダが厳しく主張し、スイクンもそれに賛同して頷いた。

“小夜はミュウツーと一緒にロケット団を潰すって言うんだよ!”

エーフィはスイクンに必死で説明し、それを聴いたスイクンは凛とした顔付きを顰めながら小夜を見つめた。
小夜は説明するかのように口を開いた。

『バショウのハッキングが成功すれば実行には移さないから。』

エーフィとボーマンダはロケット団を潰したいと主張する小夜に以前説教をした事があったが、バショウと逢引した際に再度それを言った事に当惑していたのだった。
ハッキングが成功すれば実行しないと小夜は言い張るが、ハッキングは必ずしも成功するとは限らず、何時になるのかすら未確定だ。
スイクンは首を横に振って厳粛に言った。

“お前を救う為に動いているバショウの気持ちを汲め。

ミュウツーへの接触は私も許さない。

遠隔での記憶削除のみにするべきだ。”

『……。』

小夜は瞳を伏せた。
エーフィやボーマンダが説教するよりも、スイクンが説得した方が小夜にとっては大いに効果的だった。

『……考えておく。』

“いや、許さない。”

スイクンの静かな声は小夜に重々しく響いた。
小夜はますます俯いた。
ヒノアラシが励ますように小夜の足元に擦り寄り、小夜は自然とヒノアラシを抱き上げた。
スイクンは続けて言った。

“もしお前が闘うというのなら、エーフィもボーマンダもヒノアラシも、必ずお前についていくだろう。

お前が奴らを憎む気持ちも分かるが、友を危険に晒すべきではない。”

『……。』

俯いたままヒノアラシを抱き締め、小夜は無言で塾考した。
ロケット団が憎い。
いなくなってしまえばいい。
潰してしまいたい。
その考えは浅はかだろうか。
ロケット団の研究の犠牲となったヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネの涙を思い出す。
それだけで胸が掻き乱される思いだ。

『潰したい気持ちは変わらない。』

小夜は特別な能力の所持に対する意義を見つけ出そうと、ロケット団壊滅へその能力を使用しようと目論んでいた。

『でも其処までいうのなら、分かった。』

小夜は顔を上げ、少し哀しそうに微笑んだ。

『バショウにも謝る。』

それでいい、とスイクンは言った。
エーフィとボーマンダは安心して顔を見合わせた。
だが小夜の瞳がまだ意志を宿していると気付いたのは、スイクンだけだった。




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