再会-2

深夜、小夜は少しでも仮眠を取ろうとベットに入った。
就寝灯のみを点灯させて瞳を閉じたが、案の定手紙の事で全く眠れなかった。
自分用のベッドで丸くなるエーフィと、絨毯で毛布を被っているボーマンダが寝静まった頃。
小夜が部屋から外を眺めても起きているポケモンは見当たらなかった。
空にはまだ少し傾いている満月が眩く浮かんでいる。
彼に逢えるのだろうか。
もしかすると罠かもしれないが、期待せずにはいられなかった。
小夜は二匹を起こさないように、薄暗い中で静かに普段着に着替えた。
バショウの真似をして購入した小型バッグを腰にぎゅっと巻き付ける。
其処にはあの手紙と、念の為に様々な木の実を入れた。
少しだけ窓を開け、ベランダに設置してある靴箱からスニーカーを出して履いた。
一度だけ部屋に振り向き、僅かに微笑んで囁いた。

『いってきます。』

フェンスに脚を掛けて其処から飛び降り、羽のように柔らかく着地した。
念力で窓とカーテンをそっと閉め、目的地へと歩き出した。
研究所の外へ出るのは久方振りだった。

今宵、月が真上に昇る頃
マサラタウン南の海辺にて待つ。

マサラタウン南の海辺。
野生のポケモンが沢山飛び出してくる為、物好きではない限り近寄る人間はいない場所だった。
以前は工事が計画されていたが難航し、現在は手付かずの状態となっている。
マサラタウンから其処へ向かうには、小さな森を一つ抜けなければならない。
小夜は森の前まで歩くと、意を決して駆け出した。
月光だけを頼りに、木から木へと飛び移って移動した。
ポケモン顔負けの身のこなしで駆け抜けている間に、眠っている沢山のポケモンとすれ違った。
潮の香りが鼻を掠め始めた頃、海辺が近い事を悟った。
この先に怪しい気配は感じない。

森を抜けると、穏やかな波の音が響く海辺へと出た。
ポケモンたちの鳴き声は全く聴こえない。
暗闇の中、森の木々が弱風に揺らされて騒めく。
この広大な海の先には伝説のポケモンが住んでいるという双子島がある。
まだ誰もいない小さな砂浜を一人で歩くと非常に心細いが、あの二匹に来るなと言ったのは紛れもなく小夜自身だ。
空を見上げると、真上には満月。
指定された時間だ。
あれだけ走っても息切れ一つしない小夜は、美しい満月をじっと見つめてその時を待っていた。
小夜が望む気配は今の処、全く感じない。
小夜は集中すれば、一度感じた事のある気配を街二つ分先まで感知出来る。
本当に彼は来てくれるのだろうか。
その時、二つの気配が背後に現れ、砂を踏む音がした。

『!』

小夜は後方を勢いよく振り向いた。
咄嗟に警戒した体勢を取りながらも、月明かりだけを頼りに瞳を凝らし、現れた人物を見つめる。
顔を隠すようにフードを深く被り、黒のマントで身体を覆っている。
その人物は隣にいたポケモンを静かにボールに戻すと、そっとフードを脱いだ。
小夜の瞳にみるみる涙が溢れた。
其処にいたのは銀色の肩まである長髪、これでもかという程に美形の優男だった。

『バショウ…!!』

小夜は砂を蹴り、飛び掛かるようにしてその人物に抱き着いた。
抱き着かれた人物はその勢いによろめいた。

「小夜……なのですか?」

小夜は涙で声が上手く出ず、ただ何度も頷いた。
目の前にある温もりは間違いなくバショウのものだった。

「本当に小夜なのですね。」

背に腕を回して抱き締め返してくるバショウに、小夜は更に瞳を濡らした。
これは夢ではない。
六年間、毎日待ち焦がれていた瞬間が今此処にある。




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