幼馴染み-3

小夜は地面を一蹴りして軽々と飛び上がると、自室のベランダへ華麗に着地した。
レースのカーテンのみが閉められている自室を覗くと、エーフィとボーマンダが何やら話しているのが目に入った。
窓をノックすると二匹は振り向き、エーフィが念力で解錠してくれた。

『ただいま。』

二匹はおかえりと同時に言った。

“またサトシの相手をしていたの?”

エーフィが半ば呆れた様子でそう尋ねた。
毎回嫌がりもせずにサトシの相手をする小夜は優しい。
二人は同い年とはいえ、小夜の方が断然大人っぽく、知識も豊富だ。
サトシが小夜を頼りにするのも納得する。

『彼も明日旅立つから、最後になっちゃったけどね。』

旅立つという言葉を聴いて二匹は顔を合わせた。
小夜はカーテンを開けたまま窓だけを閉めて外を眺めた。
夕陽が研究所の庭を照らし、ポッポの群れが飛んでいる。
此処からこの景色を観るのも明日までかもしれない。
ボーマンダは神妙な顔をする小夜に渋々尋ねた。

“小夜も明日旅立つのか?”

『まだ分からない。

博士にも何も相談してないの。』

実際にオーキド博士は小夜を気遣ってか何も言ってこない。
小夜は外を眺めていた視線を二匹に向けた。

『もしかしたら旅立つ事になるかもしれない。

でもこの先何があるかは分からない。』

小夜の表情は何時になく真剣だ。
ミュウツーが完成すれば、小夜は本格的にロケット団の標的となる。
六年前のような戦闘が再度繰り返される可能性も大いに有り得る。
此処に身を隠していても、逃げるように旅をしても、何時嗅ぎつけられるか分からない。

『それでも一緒に来てくれる?』

二匹は迷う事なくしっかりと頷いた。
小夜の心にじわりと込み上げるのは、この二匹への感謝と愛だった。

『ありがとう。』

小夜はボーマンダとエーフィを同時に抱き締めた。
精神的に挫けそうになった時も、真摯に支えてくれるこの二匹の存在があったからこそ今までやってこれた。
小夜はエーフィに頬を舐められ、初めて自分が涙を流していると気付いた。

『私、何時の間に泣いて…。』

ボーマンダは長い首を伸ばし、箱からティッシュを一枚咥えて取ると、小夜に渡した。
小夜は微笑みながらそれを受け取り、溢れる涙を拭った。
あの研究所にいた頃は殆ど涙を流さなかったが、脱走してからは随分と涙脆くなった。
心に封印しきれない感情が湧き上がる。

『二匹共、大好きよ。』

女の子のエーフィは嬉しそうに小夜の赤い鼻を舐め、男の子のボーマンダは照れ臭そうに頷いたのだった。



2013.1.24




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