出逢い

あの女と出逢ったのは、憎き犬夜叉に左腕を斬り落とされた日だった。
あの時の私は父上の墓場から移動したばかりで、手負いの状態だった。
深い森の奥にある巨木の根元に凭れ込み、身体を休めていた。
腹違いの弟への憎悪が胸に渦巻く中、何者かが草陰から現れた。
巫女装束を着た若い女だった。
袖の広い白衣と、蒼の袴姿の巫女だ。

『お怪我をされているのですか。』
「…去れ。」

距離がありながらも、見下ろされている体勢が気に喰わなかった。
未だに出血のある左腕は、衣に血を染み込ませていた。
女はそれを見つめていたが、表情一つ変えなかった。
私は近付いてくる女を睨み、目で威嚇した。

「殺すぞ。」
『…。』

草履で土を踏む音が止まったのは、私の傍らだった。
女は片膝をついてしゃがみ込み、今は無き私の左腕に片手を添えた。
女の腹を毒華爪で貫いてやろうとした筈が、身体が金縛りのように動かなかった。

『動かないで下さい。』

女の通力だった。
僅かに蒼を含んだ黒の瞳を間近に見つめるしか出来ずに、左腕の痛みが消失してゆく。
女の掌が纏っていた柔らかな蒼色の光には、治癒能力があった。

「殺生丸さまー!」

従者である邪見の声が遠巻きから聞こえた。
父の墓場から私をよく追って来られたものだ。
女がその声を合図に立ち上がった時、私は金縛りから解放された。
草陰から姿を現した邪見は、女の姿を見て驚愕した。

「だっ、誰じゃ貴様!
殺生丸さまに何をしておる!」

女は何も答えずに、背を向けて歩き始めた。
通力によって風を巻き上げ、瞬きをした時には姿が消えていた。
邪見は唖然としていたが、思い出したように言った。

「殺生丸さま、今の女はもしや…。」

邪見には心当たりがあるようだった。
目線で説明を求めると、話し始めた。

「蒼の巫女≠ニ呼ばれる人間の巫女かと。」

蒼(あお)の巫女───
袴が緋色ではなく、蒼色の巫女。
並外れた霊力や容姿の美しさが風の噂となり、その呼び名がついたのだという。

「殺生丸さま、あの女と一体何をされていたので…?」

邪見の問い掛けに、私は何も答えなかった。
左腕の痛みは既に無くなっていた。



2018.2.15




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