霊刀

殺生丸さまは何時もふらりと居なくなるらしい。
けれど、必ず戻って来るのだという。

「いっつもお留守番なの。
ねー、邪見さま。」
「ええい、煩いわい!」

私は次に訪れた野原で薬草を摘んでいた。
殺生丸さまは私たち三人を置いて、阿吽を連れて何処かへ行ってしまった。
昨夜、殺生丸さまを信頼していると話すと、少し驚いた表情をしていた。
りんは私が持ち合わせていた干柿を頬張りながら言った。

「花怜さまは食べないの?」
『私は夜中に食べちゃったから、平気だよ。』

咄嗟に吐いた嘘だった。
りんは私が妖怪である事を知らない。
妖怪のこの身体は食事をしなくても、暫くは生きていける。
育ち盛りのりんに食糧を与えておきたい。

『邪見さまもどうぞ。』
「要らんと言っておるじゃろうが。」

そう言い放った途端、邪見さまの腹の虫が鳴った。
凄く大きな音に、私とりんは笑ってしまった。

「笑うでないわ!」
『どうぞ。』
「ぐぬう…仕方なく貰ってやろう。」

邪見さまが踏ん反り返りながら干柿を受け取った、その時。
私は森の方角からとある気配を感じ取り、袴の隙間から掌程の長さの細い棒を取り出した。
次の瞬間には、虎のような巨大な妖怪が三匹、此方に向かって突進して来た。

「きゃあああ!」
「ぎゃああああ!!」

りんと邪見さまが絶叫し、妖怪とは反対側に全力で走り出した。
一方の私はその場に留まった。
二人が振り返りながら叫んだ。

「花怜、何をしておる!」
「花怜さま!」

私が棒を振り上げると、その先端から刃が現れた。
仄かに蒼く光る刃は日本刀のように細い。
妖怪に向かって素早く駆け出し、跳び上がった。
横向きに振られた霊刀に一太刀で斬られた妖怪は、血飛沫もなく浄化された。
蒼い蜃気楼のように消えていった妖怪たちを見届け、光の刃を軽く振って収めた。
これは私が戦闘に使用する霊刀であり、この棒は持ち手の部分である柄≠ニなる。

「花怜さま!」
「つ、強い…。」

後方からりんが駆け寄って来た。
邪見さまは口を半開きにしていた。

『もう大丈夫。
殺生丸さまも来てくれたよ。』

私の視線の先に、殺生丸さまがいた。
きっと二人の絶叫を聞いて、慌てて戻ったのだろう。
私は殺生丸さまと視線を合わせ、頷いた。
殺生丸さまが不在の際は、この二人を守ってみせる。
私が傍にいる間は――



2018.2.18




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