左目のスコープ

デイダラは雅の片手を握り、敷き布団へと雅を誘導した。
頬を赤らめたまま俯く雅は、デイダラの手を握ったまま離さない。

「とりあえず座るか、うん」

一つの敷き布団に向かい合いながら腰を下ろしたが、雅は依然として手を離さなかったし、顔も上げようとしない。
顔を覗き込めば逸らされてしまう気がしたデイダラは、片手で雅を引き寄せた。

「怖いか?」

雅はデイダラの肩に額を置きながら、正直に頷いた。
手をやっと離すと、デイダラにしがみつくように抱き着いた。

「初めては痛いって聞くしな…」
「そうじゃなくて…」

雅は痛みに対して大した心配をしていない。
先日にも身体を貫通する怪我を負ったし、あれが充分過ぎる程に痛かった。

「嫌われるのが怖くて…」

雅を嫌う?
デイダラは眉を潜めた。
妙な心配をしているらしい雅の背中をあやすように撫でた。

「何言ってんだ?
あり得ねーよ」
「だって…」
「だって、何だよ」

雅はもごもごと口籠もった。
デイダラが耳を澄ませると、雅は勇気を振り絞って言った。

「…遊女の人ってやっぱり綺麗なんですよね?」

雅は手が震えそうになった。
遊廓街で身体を売る女性を何人も相手にしてきたデイダラに嫌われたくないし、幻滅されたくない。
デイダラは唖然とした。
これも女にだらしなかった自分に降りかかる代償だ。

「私…自信なくて…」
「おいおい、お前以上に綺麗な女がいるかよ」

密かに涙目になる雅は、優しく頭を撫でられた。

「お前は別嬪だし、忍服の上からでも分かるくらいスタイルだって良いし、肌も白――」

デイダラは途中ではっとした。
ガクッと項垂れ、深く溜息をついた。

「オイラ変態かよ…」
「…いえ、嬉しいです」

雅がデイダラの肩に頬を寄せると、デイダラの腕の力が強くなった。
力強い抱擁が心地良くて、胸が高鳴る。
目を閉じてデイダラの体温に浸っていると、首筋に唇を落とされた。

「ひゃ…っ」
「…雅」

首筋をなぞるように口付けられた雅は、身体が無意識にピクリと反応した。
身体が粟立つような初めての感覚に戸惑っていると、敷き布団の上に柔らかく組み敷かれた。
デイダラの余裕のない表情に、雅の胸が切なく高鳴った。
普段はデイダラを可愛いと思ってしまう時があるのに、今のデイダラは女に欲情する男の顔をしている。

「キス、していいか?」

雅が頷くと、デイダラに唇を塞がれた。
触れ合うだけの短い口付けが甘さを増し、デイダラの温かい舌が口内にゆっくりと侵入した。
覚えたばかりの舌を絡め合う濃厚な口付けに、雅は懸命に応えた。
唇が離れると、デイダラは満足げに言った。

「このキスにも慣れてきたな」
「少しずつ…ですが」

デイダラは雅の頬を撫でた。
雅との口付けは遊女とは違って慈しむような優しさがあり、とても心地良い。
すると雅が片手を伸ばし、デイダラの左目のスコープに触れた。

「いつも着けているんですね」
「幻術対策に鍛えてるからな、うん」

流石に入浴時は取るが、基本的には常時装着している。
遠方を拡大する役目も果たすし、緊急時に備えているのだ。

「外してみてください」
「ああ、構わねえよ」

デイダラは右肘を布団についたまま、左手でスコープを外した。
長い前髪を雅に退けられながら、ゆっくりと左目を開けた。
両目で直に視線が合うと、雅が微笑んだ。

「うん?なんか嬉しそうだな」
「ずっと思っていたんです。
両目で直接見つめて欲しいな、と」

雅はスコープのない左目の周りにそっと触れた。
何かが込み上げたデイダラはスコープを枕元に放ると、雅の唇をあっという間に奪った。
貪るような口付けだった。

「お前可愛過ぎるんだよ…うん」
「んぅ、ん…!」

丁寧ながらも荒々しい口付けは、デイダラの欲情を感じさせる。
こんなに荒々しい口付けは初めてで、雅は翻弄された。
デイダラの肩を弱々しく掴むと、唇がゆっくりと離れた。
何かに耐えるかのように眉を潜めたデイダラは、湧き上がる欲情と戦っていた。
抱きたい、今すぐにでも。

「雅…オイラ、もう限界だ」
「…デイダラ…」
「今ならまだ間に合う。
無理なら無理だって言ってくれ」

デイダラは既に何度もお預けを食らっている身だ。
もし仮に無理だと言われたとしても、今回も強靭な精神力とやらで我慢してみせると思っていた。
昨夜はもう待てないとほざいてしまったが、自分の欲望のままに雅を振り回したくないのが本音だ。
二人はお互いの吐息が混じり合う距離で見つめ合っていた。
雅はもう一度デイダラの前髪をそっと払い、その両目を見つめた。
デイダラの左頬にそっと手を添えて、か細い声を振り絞った。

「…抱いてください」



2018.7.2




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