大切な人

翌朝、小国の門へと向かう木々に囲まれた道のりに、飛段の大笑いが響いていた。
飛段が爆睡していた深夜、角都はデイダラが雅を泣かせたものだと勘違いした。
更にデイダラが雅を襲おうとしていると察し、天井に触手パンチを炸裂させた。
おまけのプチリフォームと来た。
それを聞いた飛段は大笑いしているのだ。

「煩い、黙れ飛段」
「てめーも御乱心だなァ?角都よ」
「お二人共、落ち着いてください」

門まで二人を見送りに来た雅は、角都の殺気と飛段の大笑いに困惑していた。
角都を先頭に、その後ろを雅と飛段が並んで歩いている。
門までもうすぐだ。

「オレも起きりゃ良かったな…。
角都にぶん投げられた後のデイダラちゃんの顔面を拝んでやりたかったぜ」

酔い潰れていた飛段は、あの騒動でも目を覚まさなかった。
今日も若干二日酔いで、先程から愉快に笑ってしまう。
しかし、突如何かを思い出したように顔色が変わった。

「つーか雅ちゃん!
デイダラに初めてをあげるつもりなのか?!」
「へ…?」

雅の顔の温度が急上昇した。
角都の前でその手の話はやめて欲しい。

「雅ちゃんが全部デイダラのもんになっちまったら、オレはもう立ち直れねーよ…」
「え、えっと…」
「せめて初めてはオレに…なんて思ったりなァ…」
「飛段、殺すぞ」
「てめーは黙ってろ!」

角都はあからさまに溜息をついた。
飛段には早く失恋から立ち直って欲しいものだ。
それにその手の話は余り聞きたくない。
可愛い可愛い雅がデイダラに…と考えるだけで、心臓が一つ潰れそうだ。
昨夜は未遂に終わったようだが、もう時間の問題だろう。
三人が背の高い門の前に到着すると、角都は片腕でそれを開けた。

「雅、話がある」
「何でしょう?」

門から出た角都は雅と向き合い、真剣な口調で言った。

「暁はそろそろ本格的に動く」
「人柱力の捕獲を始めるんですね」

雅は遠い目をした。
人柱力ともなると、暁でも簡単にはいかないだろう。
飛段は自信満々に言った。

「心配要らねーよ。
人柱力なんざチョロいぜ」

雅は無理矢理笑顔を作った。
それを見た飛段は心苦しく思ったと同時に、本格的に動くとなれば、これまで以上に危険が伴うのだと実感した。
気を抜けば死ぬぞ、と角都から煩く警告されそうだ。

「どうか、お気を付けて」

雅は二人に頭を下げた。
すると、飛段の手が頭にポンポンと置かれた。
その手が優しくて、雅は胸に込み上げるものがあった。

「心配すんな」
「はい」
「またすぐに逢えるってもんよ。
じゃ、オレたちは行くぜ」

一週間後に賞金首の受け渡しの約束がある。
その時にまた逢えるのだ。
飛段は気さくに片手を上げ、雅に背を向けて歩き出した。
角都も踵を返そうとしたが、思い留まった。

「雅」

名を呼ばれた雅は小首を傾げ、角都の目を見た。
飛段も立ち止まり、二人に振り向いた。

「昨夜、無駄話と言っていたな」
「無駄話…?」

―――角都の旦那も雅が大切だろ?
―――角都さんは無駄話をしない人です。

「聞いていたんですね」

デイダラの質問に角都が答えなかった事を、雅は気にしていなかった。
雅が角都を慕う気持ちに変わりはないのだ。

「お前は勘違いをしている」

角都が一歩踏み出し、雅の腕を掴んだ。
雅はその腕を引っ張られ、あっという間に角都の片腕に抱き寄せられた。

「…角都さん?」

雅は背の高い角都に片腕だけですっぽりと抱き締められていた。
その様子を見ていた飛段は口出しを控えた。
角都の背中が真剣だと物語っていたからだ。

「無駄話ではない」

呟くように言った角都の台詞に、雅は自然と笑みが零れた。
逞しい胸板から沢山の心臓の音が聞こえる。
角都の背中に両腕を回すと、両腕で抱き締め返してくれた。
これがデイダラの質問に対する角都の答えだ。
それは雅にもしっかりと伝わった。
二人が身体を離すと、雅は柔らかく微笑んだ。

「角都さん、ありがとうございます」

角都は頷くと、今度こそ踵を返した。
その心は雪女と呼ばれる雅に温められていた。
もうずっと前から、金よりも何よりも雅が大切だ。



2018.6.27




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