お互いの嫉妬

デイダラは雅を軽々と横抱きにして森の中を走っていたが、巨木の前で立ち止まった。
雅を丁寧に下ろし、その両肩に優しく手を置いたまま向き合った。
自分の気の短さに嫌気がさした。
雅が困ったように微笑んでいる。

「怒っていますか?」
「ああ、怒ってる」

雅はデイダラの前髪に手を伸ばすと、スコープの下にある頬に触れた。
デイダラは赤面したが、怒った表情はそのままだ。

「妬いたんですか?」
「…うるせェ」

雅は小さく笑った。
怒っているというのに笑われたデイダラは、眉を潜めてムッとした。

「何笑ってんだ」
「嬉しいなと思って」

雅はデイダラの首元に両腕を回し、ふわっと抱き着いた。
デイダラの顔がどんどん熱くなるが、雅の体温が低くて心地良い。

「機嫌を直してください。
折角、暫く一緒にいられるんですから」

雅はデイダラが抱き締め返してくれないのを寂しく思っていると、両肩を掴まれて身体を離された。
デイダラを余程不機嫌にしてしまったのだと思うと、雅は切なげな表情を隠せなかった。
すると、デイダラが暁の黒装束の一番上のボタンを無造作に外し、隠れていた口元を露わにすると、強引に雅の唇を奪った。

「…っ!」

押し付けるような口付けに、雅の肩が小さく震えた。
デイダラは衝動的な行動を取った自分を反省し、一度唇を離した。
これではまるで八つ当たりだ。

「デイ、ダラ…?」
「すまねえ…やり直しだ、うん」

デイダラは雅の肩に片腕を回すと、白い頬に手を滑らせ、優しく口付け直した。
肩の力を抜いた雅はデイダラに応えながら、黒装束を緩く握った。
お互いに息継ぎの為に口付けの角度を変えた時、デイダラがぽつりと言った。

「あのさ…舌突っ込んでいいか?」
「…へ?」

珍しく惚けた声が出た雅に、デイダラはクッと笑った。
雅は遅れて真っ赤になると、視線を泳がせた。
デイダラの指が顎に添えられていて、俯けない。

「今まで何人にそうしてきたんですか?」
「…な?!」
「私だって妬くんですから」

デイダラの中に飛段への殺意が湧き上がった。
飛段のヤロー!
オイラが女たらしだとか余計な事言いやがったから…!
今度こそ爆破してやるぜ、うん!

「今のオイラは雅だけだ!」
「本当に?」
「本当だ!うん!
後遺症が残ったって言っただろ!」

デイダラは必死に弁解しながら思った。
まさか、雅が妬いてくれるとは。
そう思うと、途端に愛しさが溢れた。

「あー、うん、可愛いな…。
可愛いぞ、雅」

雅は何か言い返そうと思ったが、デイダラに唇を塞がれた。
自分を可愛いなどと思った事は一度もないが、デイダラに言われると嬉しいものだ。
不意に唇が短く離れ、お互いに吐息を零した時。
デイダラはその吐息に強く欲情し、無意識に舌を入れ込もうとした。
しかし、強靭な精神力とやらで我に返り、思い留まった。

「っ…危ね…!」

デイダラは雅からサッと顔を背けると、冷や汗をかいた。
同意もなしに行動して嫌われたくないのだ。
雅はデイダラの頬に手を添えると、自分から顔を寄せた。
恥ずかしく思いながらも、精一杯言った。

「デイダラ、その…私は大丈夫です」
「っ…!」
「…どうぞ」

デイダラは全身がゾクリと粟立つのを感じた。
今すぐがっつきたくなるのを抑え、雅の頭をそっと撫でた。

「無理だと思ったら言えよ?」
「はい」

雅は柔らかく微笑んだ。
改まって向き合うと、お互いに何だか緊張する。
雅がそっと目を閉じたのを合図に、デイダラはその唇を塞いだ。
今までと変わらない口付けを繰り返していると、その合間に雅が吐息を零した。
それを見計らったデイダラは、雅の唇の間に舌を滑り込ませた。

「ん…っ」

雅の口内にデイダラの舌が入り込み、ゆっくりと味わうように動いた。
初めての感覚に戸惑う雅を怖がらせないように、デイダラは慎重に舌を絡めた。
雅は戸惑った。
デイダラのする通りに動けばいいのだろうか。
勇気を出して自分の舌を動かしてみた。
自然と円を描くように絡め合うと、お互いに心地良くなってきた。

「…っ、ん」
「…雅、可愛いぞ」
「な、何言っ…んぅ」

台詞を唇と舌で遮られ、口付けは続いた。
雅はデイダラが気遣ってくれているのが分かった。
こちらのペースに合わせてくれる。
それは逆に言うと、デイダラに我慢させているという事かもしれない。
雅は心の中でデイダラに謝罪しながら、甘い時間に浸った。



2018.6.10





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