欲求のその先

デイダラと一緒にいると、張り詰めていた心が緩む。
苦しかった戦闘を忘れられる。
デイダラは自害するという雅の決意を打ち破った特別な人だ。
それを誰よりもデイダラに分かって欲しい。

この隠れ家にはシャワールームがあるとはいえ、温水は出ない。
デイダラとの口付けという束の間の触れ合いを終えた雅は、冷水を全身に浴びた。
一族特有の低体温である身体がより一層冷えるのを感じるが、それがとても心地良かった。
肩と胸元の怪我に包帯を巻き直すと、私服に着替えてから、怪我をしている忍の部屋へと向かった。
傷んだ身体を締め付けない私服は、雪女らしく白を基調としている。

「体調はいかがですか?」
「雅、この子が…」

部屋を訪れた雅は、長老の実の孫である青年に案内された。
広々とした部屋に敷かれた多くの敷き布団の一つに、幼い子供が息苦しそうに眠っている。
大蛇の尾に叩き付けられ、両足が粉砕骨折した少年だ。
雅は少年の横にしゃがみ、添え木された両足に医療忍術を使い始めた。
痛みを軽減する事しか出来ない。
たとえプロの医療忍者が手術したとしても、歩けなくなるのは免れないだろう。
冷水で冷やしたばかりの雅の身体は、チャクラを練ると熱を帯びた。

「治療が必要な人は残り何人いますか?」
「二人だ」
「分かりました」

別の女の忍が雅に近寄った。
雅の医療忍術で回復した忍の一人で、この少年の母親だ。

「雅様、どうかご自分のお身体を…」
「私は大丈夫です」

強がりだと悟られないように、雅は微笑んでみせた。
他の二人も重傷だった。
一人は片腕を切断せざるを得なかったし、もう一人は片目を失った。
三人の治療を終えた雅は一族から感謝を告げられると、青年と共に廊下へと出た。
青年は雅と向き合った。

「雅、本当に申し訳なかった」
「何のお話ですか?」
「君一人なら奴を…大蛇丸を倒せた」

雅は目を閉じ、首を横に振った。
後悔が尽きない青年は拳を握った。

「あの時、僕らは長老を殺された怒りで君の負担を考えていなかった。
君にあの場を任せて逃げていれば…」

幼い子供までもが向こう見ずに立ち向かい、一族の二人が犠牲となった。
ただ怒りに身を任せ、伝説の三忍の一人へと立ち向かった。

「君は自分の身体を優先してくれ」
「私は問題ありません。
明日にはチャクラも回復します」

そうとだけ答えた雅は、青年に頭を下げてから踵を返した。
しかし、突如右手を取られ、ゆっくりと振り向いた。
デイダラに手を握られた時とは違って、心は極めて冷静だ。

「待たせている人がいるので、私は失礼します」
「あの金髪の男か」
「そうです」

雅は立ち去ろうとするが、手を強く握られている。
離して貰えずにいると、デイダラに対する罪悪感を覚えた。
青年は雅が暁に加担しているのを知っていながらも、悔しさを滲ませながら言った。

「あの男はS級犯罪者だろう」
「私もそうですが」
「君は…奴とは違う」
「彼を軽々しく奴だなんて呼ばないでください」

雅の顔から表情が消えた。
これ以上冷たい表情を向けてしまう前に、雅はこの場を去ろうと思った。
再び背を向けても、手を離して貰えなかった。
どうか離して欲しいと口にしようとした時、前方に人影が現れた。

「雅に触るな、コノヤロー」
「デイダラ」

雅は廊下に現れた恋人を見た。
借り物である男性用のスウェットを着ているデイダラは、怒りを隠しもせずに殺気を込めて青年を睨み付けていた。
全身に緊張が走った青年の手から力が抜けると、雅はするりと抜け出した。
デイダラに駆け寄り、その隣に立った。
青年は二人から視線を逸らし、弱々しく口を開いた。

「すまなかった、雅」
「いいんです。
今はゆっくりお休みください」

雅は改めて頭を下げ、デイダラと共にその場を後にした。





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