右腕の復活

叔父上が腕の繋ぎ部分を準備している自信はあった。
彼は一流の医療忍者であり、昔から一族の人間の致命傷を想定して、何かと準備していた人間だからだ。
腕の繋ぎ部分は神経や経絡系などを通す役割を果たす為、デイダラの細胞でなくても構わなかった。
無事に今日受け取る事が出来たのだ。
しかし、繋ぎではない新たな腕を培養するとなると、幾ら早くても一週間を要すると伝えられた。
デイダラの髪を渡した雅は、吹雪に囲われた平屋を後にした。


雅は日付が変わる前には戻ると言っていたが、既に深夜の一時を回っていた。
角都と飛段は三階の部屋でデイダラと共に雅を待っていた。
不死コンビの二人が借りているのは二階の部屋だが、食事をするのはこの三階の一室を利用していた。
廊下を挟んで手前には、雅とデイダラが借りている部屋がある。
飛段はビール瓶を一気飲みした。

「あァうめェー!」
「飲み過ぎだろ、うん。
明日二日酔いしても知らねーぞ」

飛段はデイダラを無視し、ビールを浴びるように飲んでいた。
角都と飛段は日付が変わる前に露天風呂を借り、暁の黒装束から浴衣に着替えていた。
腕のないデイダラは雅がいない為、食事や入浴をする事なく、静かに雅を待っていた。
窓際で網戸越しに星々が光る空を見上げながら、愛する人に思いを馳せた。

「遅せーな…うん…」

角都はデイダラを一瞥したが、何も言わなかった。
酒のつまみを食べ進めている角都だが、酒は飲んでいない。
酌担当の雅が戻るまで飲まないつもりだ。
その時、デイダラが立ち上がった。

「雅だ」

雅の姿が見えた訳ではないが、そう直感した。
デイダラは半開きにしてあった扉から部屋を飛び出し、階段を一気に駆け下りた。
宿の玄関の扉を肩で無理矢理開け、滅多に人の通らない外に出た。
すると、空から無数の氷の粒が見えた。
粉雪のように揺らめいて現れたそれは、デイダラの前で人の形を作った。
氷が徐々に色付き、黒衣を纏う雅が現れた。

「おかえり、うん」
「戻りました」
「遅かったな」
「やっぱり遠くて」

デイダラは雅に近寄り、その芸術的な顔を覗き込んだ。
雅の綺麗な瞳が見つめ返してくれる。

「オイラが抱き締められない分、雅が抱き締めてくれるんだろ?」

遠回しに抱き締めて欲しいと求められ、雅は微笑んだ。
デイダラの背中に両腕を回し、そっと抱き締めた。

「ちゃんと腕の繋ぎ部分は貰えましたよ」
「そうか、すまねえな」
「左腕の培養には最低でも一週間はかかるそうです。
またその日にあちらへ伺いましょう」
「分かった」

デイダラは雅の耳元に唇を落とした。
雅の身体が冷んやりと柔らかくて、胸が高鳴ると同時に安堵する。
もっと触れたい。
片腕だけでも復活すれば、雅にかける負担も減るし、雅を抱き寄せられる。

「角都の旦那の所に行くか」

雅は顔を上げたが、デイダラの目をじっと見つめた。
その表情が神妙で、デイダラは雅を真剣に見つめ返した。

「うん?どうした?」
「その…一人で空を飛んでいると…何かと考え込んでしまいました」
「サソリの旦那の事か?」

弱々しく微笑んだ雅に目を細めたデイダラは、雅と額を合わせた。
サソリが亡くなり、デイダラが両腕を失う程の重傷を負った事で、雅は暁のメンバーの死を身近に感じるようになった。

「……少し怖くて」
「オイラがいるぞ」

雅は次こそ穏やかに微笑み、デイダラの左頬に片手を添えた。

「キス…しませんか?」
「オイラも言おうと思ってた」

二人は引き寄せられるように唇を重ねた。
お互いを求め合う時間は他の事を忘れていられる。
息を荒げながら夢中で舌を絡め合い、濃厚な口付けを何度も繰り返した。
いつまでも続けていたかった。

「ん…デイダラ…そろそろ…」
「…うん」

唇を離した雅だが、デイダラはやめなかった。
逃すまいと雅の唇を塞ぎ、雅の口内をじっくりと味わった。
必死に応える雅は目を潤ませ、酸欠になるのを感じた。
僅かにふらついた雅に気付いたデイダラは、名残惜しそうに唇を離した。
口付けに陶酔する雅の表情が魅惑的で、まだ続けていたい欲を抑えるのは辛かった。

「やり過ぎたな…すまねえ。
またお前に無理させるのはいけねえな」
「求めて貰えるのは嬉しいですよ」
「…抱きたくなるような事言いやがって。
暫くは角都の旦那と一緒だってのに」

二人は最後に一度だけ軽く唇を合わせてから、宿へと歩き出した。
手を繋ぎたくなった雅は、デイダラの浴衣の袖を掴みながら歩いた。

「腕が戻ったら、繋ぎましょうね」
「ったく可愛い女だな」

愛しさが込み上げたデイダラは、雅の頬に唇を落とした。




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