待ち受ける未来

翌朝にかけて、雅はデイダラと寄り添い合って眠っていた。
しかし、二時間程度で目が覚めてしまった。
眠りが浅かったように思う。
深夜は角都に酒を持っていったのではなかっただろうか。
泣き疲れて寝てしまって――それ以降の記憶が曖昧だ。
雅はデイダラを起こさないように、そっとその腕から抜け出した。
浴衣姿のまま、洗面室で洗顔などの身だしなみを整えたが、泣き腫らした目が痛んだ。
デイダラの屈託ない寝息を聞きながら、音もなく部屋から出た。
向かった先は、物干し竿や倉庫が置かれている屋上だった。
其処へ繋がるドアをゆっくりと開けると、浴衣のまま佇む人物がいた。

「イタチさん」
「雅か」

イタチは雅に振り向いた。

「何故此処にいると分かった?」
「私は感知が得意ですよ」
「そうだったな」

雅は微笑み、イタチの隣に並んだ。
屋上から見える景色は、昇り始めたばかりの朝日に照らされていた。
ちっぽけな小国とそれを囲う広大な森の木々や畑が新鮮に見える。

「イタチさん、あまり興味がないかもしれませんが、聞いてください」

柔らかな風に吹かれながら、雅はイタチを見た。

「私はターゲットを全員始末し終えたら、自害しようと思っていました」

角都に話していないのなら、イタチにも話していない。
まず、デイダラに話したのが初めてだった。
イタチは雅の目を見つめながら言った。

「気付いていた」
「いつからですか?」
「あの巻物を渡された時だ」

雅はイタチから視線を逸らし、遠い目をしながら景色を眺めた。

「酷い話ですよね。
イタチさんは病気と懸命に戦っているのに、私は自ら命を絶とうと思っていました」
「今は違うんだろう?」
「デイダラに出逢いましたから」

デイダラを想うと、雅の心は幸福を感じる。
これからの人生、彼の傍で生きたい。

「言っておくが、興味のない話ではない。
お前は俺の妹のようだからな」
「嬉しいです」

イタチとは薬を渡す為に何度も顔を合わせたし、泊まり先を紹介した事もある。
同じ場所に宿泊し、食事を共にした事も多々ある。
それでも、そんな風に思ってくれているとは思わなかった。
イタチは朝日に照らされている雅の横顔を見つめた。

「俺が死ぬなと言えば、お前はどうした?」

雅は再びイタチの目を見た。
仮にイタチにそう言われたら、自分はどうしただろうか。
難しい仮定に、雅は黙り込んだ。
安易に回答するのは無礼だと思った。
もし、イタチに死ぬなと言われたら、生きようとしたかもしれない。
逆にイタチの死を知るのが嫌で、先に死のうとしたかもしれない。
胸が苦しくなった雅は固く目を瞑り、泣き腫らした目が痛むのを感じた。

「すまない、困らせてしまったな」

イタチは雅の頭を撫でた。
雅はまた泣きそうになった。
それを隠す為に、深く俯いた。

「お前から薬を半年分貰ったとはいえ、俺は半年ももたない」
「やめてください、そんな話…」
「聞いてくれ、雅」

雅は首を必死で横に振った。
胸が閉塞感に襲われ、とても苦しい。
イタチは俯く雅と真正面から向き合い、その両肩に手を置いた。

「お前は俺の真実を知ってくれた、大切な人だ」

この話が雅を苦しませるのを、イタチは分かっている。
それでも、聞いて欲しい。

「お前には俺の死を受け入れて欲しい」
「生きているじゃないですか!」

雅は顔を上げ、必死で訴えた。

「今…私の目の前にいるじゃないですか…!」

イタチは雅の頭に手を置いたまま、雅と額を合わせた。
そして、優しく語りかけた。

「俺の分も生きろ」

雅の泣き腫らした目から涙が零れた。
イタチは雅の頬を両手で包み、涙を拭った。

「そして時々、俺の事を思い出してくれ」

雅はイタチの優しい目を見つめた。
今、自分に出来る事は何だろう。
迫り来る死を目前にしたイタチを、安心させられる言葉は何だろう。
雅はそれを知っている。

「っ…はい…」

雅の返事に、イタチは満足した。
このような思いをさせて、本当に申し訳ないと思った。
それでも、自分の為に涙を流してくれるのがとても嬉しかった。

「ありがとう」

雅、お前と出逢えて良かった。
心からそう思うよ。



2018.9.2




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