想いを言葉に

イタチにチャクラを流し込みながら、雅は固く目を瞑っていた。
出逢った当時を思い出すと、後悔の念が怒涛のように襲ってきた。
初めて薬を渡して以降も、雅とイタチは顔を合わせる機会があった。
その度に、雅はチャクラをイタチの傷んだ身体に直接流し込んだ。
雅が宿を紹介した際には、弟への想いを語ってくれた事があった。
木ノ葉の里の英雄になって欲しい、と。

「雅、チャクラはもう充分だ」
「…はい」
「ありがとう」

雅はイタチから両手を離し、深く俯いた。
悔しくて仕方がない。

「私にもっと力があれば…」

延命の薬に変えるような事態にはならなかったかもしれない。
もっと言えば、治せたかもしれない。

「お前がいたからこそ、俺は今もこうして生きている。
お前は俺に尽くしてくれた」

雅の目から涙が伝った。
イタチはそれを親指でそっと拭った。

「お前は俺の癒しだった」
「ですから過去形にしないでください」
「新しい妹が出来た気分だった」

どうしても過去形にしてしまうイタチに、雅の目から更に涙が溢れた。
目を細めて困ったように微笑んだイタチは、両手で雅の涙をグッと拭った。
その時、右方向から殺気がした。
即座に気付いた二人は、其処に視線を向けた。
草陰から飛び出し、怒りの形相で拳を振り上げているのは、デイダラだった。
遠距離の戦法を取るデイダラが、近距離でイタチを殴ろうとしていた。

「デイダラ…!」

依然として涙が溢れる雅は、素早く地を蹴った。
拳を振り上げるデイダラの腕を片手でいなし、その首元にぶつかるように抱き着いた。
デイダラはその衝撃で背中から転倒し、地表に叩き付けられた。
雅の身体が放り出されないように、無意識に雅の背中に両腕を回した。
そして素早く上半身を起こし、首元に抱き着いてくる雅を引き剥がそうと、その肩を強く押した。
雅は痛みを感じたが、絶対に離すものかと思った。

「イタチ!てめェ!!
雅に何しやがった!!」
「誤解です!落ち着いてください!」

立ち上がったイタチはやはり身体が軽くなったのを感じたが、それを楽観視する余裕はなかった。
最も知られたくなかった相手に見つかってしまったと思った。
それと同時に、抱き着いてまでデイダラを阻止した雅に驚いていた。
デイダラは一向に離れようとしない雅に怒鳴った。

「離せ!!」
「絶対に嫌です!」

デイダラは無理にでも立ち上がろうとした。
しかし、雅が肩を押してくるデイダラの右手首を掴み、離れないようにと氷で拘束した。
デイダラの手首と雅の手が氷で繋がり、デイダラはその腕を動かせなくなった。
ならばと空いている左手を粘土袋に入れようとしたが、いつの間にか粘土袋が凍り付いていて、チャックが開かなくなっていた。

「話を聞いてください!」
「離せ雅!!」
「っ、デイダラ!!」

泣き叫ぶような雅の声に、デイダラは息を呑んだ。
雅の涙を間近で見つめていると、徐々に平常心が戻ってきた。

「デイ…ダラ…お願い…」

雅の氷が消え、デイダラの腕が解放された。
デイダラは荒くなっていた呼吸を整えながら、雅の肩を撫でた。

「すまねえ、雅…痛かったか?」
「痛かったですよ…馬鹿」

雅は涙を隠す為に、デイダラの肩口に額を押し当てた。
デイダラは雅を優しく抱き締めながら、イタチを睨んだ。
イタチは目を閉じ、深く息を吐いた。
ゆっくりと開けた目は、写輪眼となった。
雅はデイダラに額を当てたまま、この状況をどのように打開するべきかを考えていた。
イタチの病気をデイダラに知られるのは避けたい。

「説明しろ、イタチ。
雅に何しやがった」
「デイダラお願い、詮索しないで」
「無理に決まってんだろ」

デイダラは引き下がるつもりはなかった。
それを悟ったイタチは、この状況を打開するには病気を患っていると説明するしかないかもしれないと思った。
雅はデイダラの顔を両手で包み、涙目で訴えた。

「デイダラ、お願い」
「無理だ。」
「お願い」
「無理だって言ってんだろ」
「…お願い」
「っ…無理だ…うん」

雅の無意識の上目遣いがデイダラを赤面させた。
イタチはふっと笑った。

「お前たちは交際していたんだな。」
「…悪りーか。」
「妹を取られたような気分だ」

デイダラはその台詞に拍子抜けした。
生真面目なイタチがそのような発言をするとは。

「イタチさん、先に行ってください」
「だが…」
「デイダラはきっと分かってくれます。
私が選んだ人ですから」

デイダラは雅に勝てないと思った。
雅の一挙一動で、あっという間に宥められてしまうのだ。
心配の目で雅を見ていたイタチだが、此処は任せるしかないと思った。

「すまない、頼んだ」
「大丈夫です」

イタチは踵を返し、静かに駆け出した。
デイダラはその背中に文句を言おうとしたが、雅に改めて抱き着かれた。
イタチを引き留め損ねたが、雅に異変を感じた。
抱き着いてくる雅の腕の力は弱々しかった。

「…デイダラ」
「うん?」
「…私…」

デイダラは雅の身体を優しく抱き寄せ、その耳元に唇を落とした。
この際、イタチなど放っておけばいい。
雅の方が何万倍も大切だ。

「何だ?何でも言えよ」
「……苦しい」

雅とイタチの間には、何か事情がありそうだ。
恋人である自分にさえ話せないような、深刻な事情が。

「いつか必ず話します。
だから、今は…」
「分かったよ、もう聞かねえから」
「…ごめんなさい」

デイダラは苦しそうな雅を前に、話を聞き出そうとは思えなかった。
雅が落ち着くまで、ずっと抱き締めておこうと思った。
雅を支えるのは自分の役目だ。
無闇に詮索して雅を傷付けるのは避けたい。
雅が苦しいのなら、たとえあのイタチの事でも、何も聞かないでおこう。
気になるのは山々だが、雅が話そうと思える日まで待ち続けよう。
それが惚れた弱みであり、雅の男であるという事だ。




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