深夜の月見

雅がそっと三階の部屋に戻ると、デイダラが敷き布団の上でダウンしていた。
うつ伏せで大の字になり、髷を作っていない金髪がくしゃっと広がっている。
万が一に備える為に、額当てと粘土袋がテーブルの上にスタンバイしてあるし、左目のスコープも健在だ。
雅はデイダラの傍にしゃがみ、その髪を手櫛で優しく整えた。

「寝てしまいましたか…?」
「…起きてるぞ、うん」

デイダラが雅にもぞもぞと顔を向けると、雅は微笑んだ。

「もう寝ているかと思いました」
「月見しながら話そうって言っただろ」
「勿論覚えていますよ。
お待たせしてしまいましたね」

デイダラはしゃがんでいる雅に飛段が抱き着いていたのを思い出した。
飛段のようにガバッと飛びつくのではなく、恐る恐る抱き着いてみた。
雅の膝に顔を埋めると、独占欲が満たされた。

「…雅はオイラの女だ」
「そうですよ?」

雅はデイダラの頭を撫でた。
飛段にこうされた時は何とも思わなかったが、デイダラだと心音が煩くなる。

「眠いですか?」
「いいや、目が覚めた」

デイダラは仰向けになってみた。
俗に言う膝枕だ。
下から眺める雅の顔も芸術的だ。
雅の膝が冷んやりして柔らかくて、いつまでもこうしていられる。

「雅は角都の旦那と一緒に飲んだのか?」
「いえ、全く。
まだ二十歳ではないですから」
「オイラもだけどな」

夕食時、飲食の不要なサソリの部屋に全員で突撃した。
サソリは何故此処で夕食にする必要があるのかと不貞腐れていたが、芸術に関して雅に雄弁を振るっていた。
デイダラは飛段から少し飲まされたが、酔う程の量でもなかった。
元から酒癖が悪い方ではない。
雅もその場にいたし、悪酔いは出来ない。
露天風呂では酔っ払いの飛段と揉めた。
雅を諦めないと言い張っていた飛段だが、上手く呂律が回っていなかった。
二階の宿泊部屋に戻った瞬間に寝落ちたのか、音沙汰がない。

「月見にするか」
「そうですね」

名残を惜しみながらも、デイダラは上半身を起こした。
雅はデイダラが窓を開けている間にポットでお湯を沸かし、緑茶の準備をした。

「オイラの話って言っても、何を話したらいいんだ?」
「何でも」
「もしお前に嫌われたら…」
「遊廓街に通っていた以外にも失態があるんですか?」
「……それ以上はない筈だ、うん」

そう雅に言われてみると、デイダラは何でも話せる気がした。
過去の遊廓街通い以上の黒歴史などないし、雅はそれを知っている。
飛段に女たらしなどと言われたばかりだ。

「よし、何でもかかってこい!うん!」

雅は急須から湯呑みに緑茶を注ぎながら微笑んだ。
デイダラが一人で気合いを入れているのが可愛い。
浴衣同士の二人は窓際に並んで腰を下ろし、寄り添い合った。



2018.6.16




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